気高き敏腕CEOは薄幸秘書を滾る熱情で愛妻にする
 驚きのあまり目を見開き、手は無意識に口元を覆っていた。そんな風に態度に出てしまうくらい、男性は見事な程に整った顔をしていたのだ。
 形のよい小さな顔に、完璧な形の眉と綺麗な二重の目、すっとした鼻と口が一部の狂いもなく正しい場所に収まっている。美形とは骨格から整っているのだとしみじみ感じる素晴らしい造作だ。
 ヘアスタイルは少し動きのあるショート。特別凝った髪型ではない分、元々の顔立ちの良さを引き立てている。
 つい見惚れていると熱烈な視線に気づいたのか、男性が怪訝な顔になった。
(しまった!)
 初対面でじろじろ見るなんて、きっと失礼だと思われた。
 咲良は慌てて視線を逸らし、帰って行く女性を見送る。
 童顔のせいでか小柄なイメージだったけれど、立つとすらりと手足が長くかなり長身だった。多分百六十二センチの咲良よりも十センチくらい高いだろう。華奢なのに胸は前に突き出していてまるで外国のモデルみたいだ。
(ふたりが並ぶと、美男美女でお似合いだな……)
 華やかで輝かしい。日々の仕事で疲れ果てた咲良とは別世界の人間に見える。
 そんなことを考えがら、自分の服の汚れもささっと落として一息つく。するとタイミングを見計らっていたようにマスターに声をかけられた。
「駒井さんご迷惑をおかけしました。お洋服は大丈夫ですか?」
「はい。大したことありませんよ」
 以前、金洞副社長がぶちまけた赤ワインが、白いスカートを赤く染めたときの衝撃に比べたらなんてことはない。赤いシミが着いたスカート姿で帰るのは辛かった。
 本当に副社長の関係では苦労している。
(今日だって……)
 思い出すと憂鬱になり、自然と眉が寄ってしまう。
(ダメダメ、これ以上シワが深くなったら溝になっちゃう)
「マスター、お代わりください。なにかスカッとするようなものを」
 さっさと気持ちを切り替えよう。気分転換に来ているんだから、副社長のことは考えない。
 しばらくすると、小さな泡を立てた白色のカクテルが入ったグラスを差し出された。
「穏便に収めて下さった御礼です」
 どうやら驕ってくれるらしい。
「ありがとうございます!」
 咲良はグラスを口に運ぶ。甘すぎない爽やかな飲み口。適度な炭酸が爽快感がある。
「美味しい。これを求めてました。さすがマスター」
「お気に召したようでよかった。こちらもどうぞ」
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