気高き敏腕CEOは薄幸秘書を滾る熱情で愛妻にする
 甘玉堂と言ったら、経営難から瞬く間に立ち直った、金洞商会がライバル視していた企業だ。
 ワタライワークスは、業務改善の為のサポート契約をしている。
「あ、もともと個人的な関係があったから、仕事でも契約を結んだんですね」
「そうだ。うちが提案した流通システムが上手く作用して甘玉堂は売上を伸ばした」
「もちろん知ってます。大躍進だって金洞商会でも話題になってたので」
「実は今回、HARADAと甘玉堂が業務提携することになりそうなんだ。ワタライワークスは二社間の商流が円滑になるようなサポートをする」
「すごい……おおきなプロジェクトになりますね!」
 異業種の二社でどのような提携をするのかは分からないが、以前金洞紹介が企画していたのと似たような内容の可能性が高い。
 金洞商会の人々が知ったら気分が悪くなりそうだけれど。
「仕事が始まったら咲良も連絡を取り合うことになるから、先にプライベートとして紹介しておきたいんだ」
 だから、急いで会う機会をつくったのかと咲良は納得して頷いた。
「それに幼馴染も咲良に早く合わせろとうるさかったんだ」
「私に?」
「ああ。俺が一目惚れして奥さんと話すがの楽しみだそうだ」
 甘く見つめられて、咲良の顔に熱が集まる。
「一目惚れなんて、プレッシャーを感じてしまいます」
「大丈夫。咲良はそのままでいい女だから」
「……あまりからかわないで」
「本心だけど?」
 照れる咲良に、颯斗は素知らぬ顔をする。
 頬を膨らませながらも、胸の中には喜びが広がっていた。

 幼馴染の自宅は住宅街の中に有る高い塀に覆われた日本家屋の邸宅だった。
 瓦屋根の立派な門にも驚いたが、その先の玄関までの距離も予想以上だった。
「すごい家ですね、昔の武家屋敷みたい……」
 さすがは歴史ある甘玉堂の経営者の屋敷だ。
「本人は維持管理が負担だといつも愚痴をこぼしてる」
「たしかに庭の手入れだけでも大変そうかも」
 庭にはところどころに木が植えられているが、手入れが行き届いているとは言えないかもしれない。
 門を通り左手には庭が広がっており、暗がりで先が見えない程だ。
 玄関に辿り着くと、大きな引き戸が待ち構えていたようにゆっくり開き出した。
(見かけによらず自動ドア?)
 驚く咲良の前で引き戸が開ききり、濃紺の着物姿の男性が現れた。
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