気高き敏腕CEOは薄幸秘書を滾る熱情で愛妻にする
 すらりとした体型で身長はちょうど咲良と颯斗の中間くらい。切れ長の目とすっと通った鼻梁が涼し気な印象を与えている。前髪と襟足が少し長めの個性的なヘアスタイルであるものの、彼にとても似合っている。着物姿だからか、和のイメージが強い人だ。
(この人が颯斗さんの幼馴染で甘玉堂の社長?)
「いらっしゃい!」
「お前、わざわざ出迎えるなんて、どうしたんだ?」
 彼の登場は颯斗にとっても予想外だったようで、顔が引きつっている。
「今日は奥さん連れだから歓迎しようと思って」
 颯斗は呆れたような表情をしてから、咲良に男性を紹介した。
「咲良、彼が俺の幼馴染の深見朔朗(ふかみさくろう)だ。朔朗、妻の咲良だ」
「咲良ちゃん、よろしく。今日は来てくれてありがとう」
 颯斗の言葉に合わせ、朔朗が親し気に微笑む。
 初対面とは感じさせないフレンドリーな態度だ。きっと人当たりのよい性格なんだろう。
 しかし佇まいには隠し切れない品が滲み出ていて、この歴史がありそうな邸宅の住人に相応しい。
「こちらこそお招きいただきありがとうございます」
 日中の外出時ににデパ地下で買っておいた手土産を渡すと朔朗は「ありがとう」とテンション高く受け取った。
「嬉しいな。咲良ちゃんとは名前も似てるし、仲良くなれそうだ」
「そ、そうですね」
 桜が想像していた人物と少し違っているけれど。
「さ、入って」
「お邪魔します」
 門構えを見て予想していたが、玄関が驚くくらい広い。まるで旅館だ。
 かなり古い建物のようだがリノベーションされている様子はなく、部屋の中も地方の旅館の雰囲気がある。
 通された応接間までは、きしきし音がなる細い廊下を進んだが部屋の中は驚くくらい現代風に壁のクロスもフローリングも新しいものが使われていた。
(ギャップがすごいわ)
「お茶を淹れてくるから適当に座って」
「あ、お構いなく」
 咲良の言葉に朔朗はひらひら手を振りながら、応接間を出て行った。
「咲良、大丈夫か?」
「……はい」
 咲良の困惑に気付いているようで、颯斗は気まずい顔をしている。
「あいつも普段はもう少し落ち着いているんだが、今日は咲良がいるからはしゃいでるみたいだ」
 颯斗がはあと溜息を吐く。
「気さくな人で緊張が解けたので助かりました」
「それならいいが」
 颯斗は苦笑いだ。
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