気高き敏腕CEOは薄幸秘書を滾る熱情で愛妻にする
 何か言いかけた朔朗を、颯斗が遮った。そんな風に強引な言い方をするのは家でもオフィスでも見たことがない為驚いたが、それだけ心を許している幼馴染ということだろう。
 その後言い合いを始めたふたりを、咲良は微笑ましく眺めたのだった。

 プライベートでは夫婦仲はますます深まり、仕事は順調と充実した日々が過ぎていた。
 本当の夫婦になった日を境に、颯斗の態度はかなり変化した。
 優しさや気遣いは変らないものの、物理的な距離に遠慮がない。
 仕事以外の外出時は当たり前のように肩や腰を抱くし、自宅でも何かとスキンシップをしかけてくる。
 咲良も彼と触れ合うのは嬉しいので、応じる形で気付けばやたらと密着している。
 契約結婚夫婦として過ごしていた頃の颯斗は、相当咲良に気を遣い、距離を保っていたのだとしみじみ思う日々だ。

「颯斗さん、私はそろそろ寝るね」
 夜十一時。リビングのソファで本を読んでいた咲良は、あくびを噛み殺しながら立ち上がった。
「ああ、もうこんな時間か」
 隣でタブレットを眺めていた颯斗も咲良に続く。
「颯斗さんももう寝るの? 珍しいですね」
 彼は早めに帰宅した日も大抵、本を読んだり調べものをする。知識を深めたり最新の情報を収集するのは仕事をするうえで必須だからだそうだ。
 既に成功しているのに慢心せず努力する姿勢は咲良にとってもよい刺激になる。彼に倣って、先日から以前挫折した英語の勉強を再開した。
 夕食後に家事と入浴、リラックスタイムを終えた後に僅かな時間だが、コツコツ続けることが大切だと続けている。
 咲良がリビングのローテーブルで勉強するようになると、颯斗も咲良の近くで読書をすることが多くなった。ふたり共無言で自分の作業をしている状態だけれど、同じ空間にいるのが心地よくて、咲良が密かに楽しみにしているひとときだ。
 ただ咲良は十一時頃になると睡魔が襲って来るので、先に寝室に行く。
 颯斗はしばらく残っていることが多いが、今夜は疲れてしまったのだろうか。
(颯斗さんは体力に溢れてるけど、最近寝不足が続いているからね)
 先日新たに業務を請け負ったHARADA以外にも新規案件を請け負い、会社は成長を続けている。
 たまにはたっぷり睡眠をとった方がいい。
 寝室の入口に近いベッドが颯斗、奥が咲良が使っている。
< 82 / 108 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop