気高き敏腕CEOは薄幸秘書を滾る熱情で愛妻にする
「少し気になることが有って」
「気になること?」
「実は瀬奈の様子がおかしいの」
「どんな風に?」
 五葉瀬奈の言動が一般的な常識の範囲内から逸脱しているのは今に始まったことじゃない。
 彼女は非情に自己愛が強いのか、自分の感情を最優先しその結果周囲が傷ついても問題にしない性格だ。だからこそ見合い相手の前で、他の男と結婚したいなんて気遣いの欠片もない発言が出来るのだ。
 颯斗は瀬奈を内心嫌悪しているが、渡会家の立場を思うと無碍には出来ない。
 特に兄は後継者として、私情を挟まずよい関係を築くために努めている。だからこそ颯斗が厳しく拒絶して、関係悪化を招く事態は避けたくて距離を置くだけにとどめている。、
「まさかまた兄に非常識な発言をしたのか?」
「ううん。彰斗さんとは直截関係はないんだけど……最近瀬奈が友人達に変なことを言い回っているの。颯斗さんは近い内に離婚して、私と結婚することになるって」
「なんだと?」
 妄言にしてもあり得ないし腹立たしい。つい険しい顔になってしまうと、羽菜が気まずそうな顔をする。
「嘘は駄目だって窘めたんだけど、私の言うことなんて聞かないから。それで問題は瀬奈の友人がその嘘を信じていて、更に周囲に広めてるところなの。咲良さんの耳に入ったらショックを受けるんじゃないか心配で」
「そうだな。何か対策を考える。情報助かった」
「私も何か出来たらいいんだけど」
「いや、羽菜は巻き込まれないように知らないふりをしていた方がいい」
 瀬奈は羽菜の妹であるが、五葉家の家庭事情は少々複雑で羽菜と瀬奈は異母姉妹だ。現在の五葉夫人は瀬奈の実母なことから、瀬奈の意向ばかりが優遇されている。羽菜にとってはよくない環境だ。
「でも颯斗さんも瀬奈と険悪になる訳にはいかないでしょう?」
 羽菜が不安そうに言う。彼女がここまで慎重になっているのは、ワタライワークスが五葉家の傘下のベンチャーキャピタル社の出資を受けているからだ。
 瀬那の機嫌を損ね、彼女の父の五葉氏を怒らせたら今後の出資が無くなり、会社運営に支障が出るかもしれない。そう心配しているのだろう。
「経営に関してなら心配は要らない」
「でも……」
「五葉さんがワタライワークスを見込んで出資してくれたことには感謝している。だがいつまでも続くものとは考えていない。リスク管理はしている」
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