気高き敏腕CEOは薄幸秘書を滾る熱情で愛妻にする
五章
五章 夫婦のすれ違い
咲良が外出から戻ると、羽菜が何やら険しい表情で会話をしている様子が視界に入った。
(何かあったのかな?)
ふたりが深刻そうだからかやけに気になってしまう。
仕切りが透明なため視界はクリアだが、それなりに防音効果はあるので声は一切聞こえてこないので予想も出来ない。
かと言って呼ばれてもいないのに割り込むことは出来ない為、咲良は颯斗たちから目を逸らし自席に着いた。
外出中に来たメールのチェックや、依頼されていたデータ収集を行っていると、ようやく羽菜が戻って来た。
「あれ? 咲良さんもう戻って来たの?」
羽菜は咲良がいることに驚いている様だ。
「はい。思っていたより早く用事が終わったので」
「そうなんだ、早く終わったのならよかった」
羽菜の声はいつもよりも高く上擦っているようにすら感じた。明らかに普段と態度が違う。
「あの、何か有ったんですか?」
羽菜は一瞬気まずそうな表情になった。咲良には関わって欲しくない内容なのだろうか。
「その、羽菜さんも颯斗さんも深刻そうだったからトラブルなのかと思って」
「ううん。そうじゃなくて、ちょっとした報告をしてただけなの。だから心配しないでね」
羽菜は否定しているが、反応から咲良には知られたくない内容だったことは明らかだった。
「分かりました。私がお手伝い出来るようなことが有ったら言ってくださいね」
何とも言えない寂しい気持ちに苛まれながらも、咲良はそれ以上追及せずに話を切り上げた。
心配するなと外された以上、いつまでも拘っていても仕方がない。
外出して溜まった仕事に着手する。集中していると余計な考えは消えて、あっという間に時間が流れていく。