気高き敏腕CEOは薄幸秘書を滾る熱情で愛妻にする
 夫婦だからと言ってお互いの交友関係の全てを把握するのは無理だ。咲良だって颯斗に紹介した友人は数人だけだし、それが問題だとは考えてもいなかった。
 けれど今、自分の知らないところで知らない誰かと過ごしている夫のことを思うと、寂しさがこみ上げる。
(疎外感のようなもの?)
 日中、颯斗と羽菜の様子は明らかにおかしかった。それなのに二人とも咲良には事情を話してくれなかった。
 思い出すと気分が沈む。
 最近は毎日が幸せだったから、こんな気分は久し振りだ。
 自分は少し拗ねているのかもしれない。
 このモヤモヤを解消したくて、仕事が終わるなり急ぎ霽月にやって来た。
 とは言え、あまり飲みすぎると颯斗に心配をかけてしまうだろうから、ほどほどにお酒と料理を楽しんでリフレッシュしてから帰宅するつもりだ。
 ホタテのソテーと牛蒡のサラダなどを頼み、久々のマスターの料理を味わう。
 ときどきマスターと世間話をしながら、一時間程のんびり過ごしていると、段々気分がよくなって来た。
 我ながら単純だなと苦笑いのような気持ちになりながら帰り支度を初めていたとき、思いがけずに呼びかけられた。
「咲良ちゃん?」
 振り返ると、そこには颯斗の幼馴染である朔朗が驚きの表情で佇んでいる。
「朔朗さん? どうしてここに?」
「ドタキャンされて時間が空いたから飲みに来たんだ」
 朔朗は素早く店内を見回してからマスターに許可を得て咲良の隣の席に座る。
「咲良ちゃんはひとり?」
「はい。以前からときどき飲みに来てるんです」
「そっか。たまにはひとりで飲みたいよね」
「そういう訳ではないんですけど……」
 否定したものの、朔朗は楽しそうに話を進めてしまう。
(これじゃあ、私が颯斗さんを置いて飲みに来たみたい……でもまあいいか)
 お酒の席で、細かいことをいちいち言う必要はないだろう。
「朔朗さんもよく来られるんですか?」
「うん。結構長く通ってる。最近は忙しくてあまり来られなかったけど。そうだ、颯斗に紹介したのも僕なんだよ」
「それは知りませんでした」
「落ち着いた雰囲気が颯斗に合ってるみたいだね。あいつも忙しいから、癒しを求めてたんじゃないかな。起業したての頃なんて駆けまわってからね」
 幼馴染だけあって颯斗の事情をよく知っていそうだ。
「そう言えば咲良ちゃんは、颯斗の兄にもう会った?」
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