気高き敏腕CEOは薄幸秘書を滾る熱情で愛妻にする
「はい。先日颯斗さんの実家にお邪魔したとき、お兄さんと五葉瀬奈さんにお会いしました」
「え? 彼女と遭遇しちゃったんだ……大丈夫だった?」
「ええ、まあ……」
 言葉を濁す咲良に、朔朗は苦笑いを浮かべる。
「まだ諦めてないってのもすごいよね。颯斗が相手だと仕方ないかもしれないけどさ」
「颯斗さんは完璧かってくらい何でも優れていますものね」
 一緒に暮して分かったけれど、家事能力まで高くて、弱点というものが見当たらない。五葉瀬奈が好きになる気持は分かる。その後の行動は到底理解出来ないけれど。
「でもあいつにも弱点はあるからね」
「え、そんなものありますか?」
 咲良には全く思いつかない。何しろ夫には嫌いな食べ物すらないのだから。
 朔朗はなにかを企んでいるかのように目を細める。
「教えて欲しい?」
「……はい」
 少しだけ嫌な予感を感じながらも、好奇心に逆らえず咲良は頷く。数秒の間の後、思いがけない言葉が耳に届いた。
「咲良ちゃん」
「え?」
「だから咲良ちゃんだって。あいつは咲良ちゃんのことめちゃくちゃ好きだからね」
 ぽかんとする咲良に、朔朗が得意げに言う。
 言葉の意味が頭に浸透すると、一気に照れくさい気持ちが襲って来た。
「な、何言ってるんですか。揶揄ないでください」
「揶揄ってないよ。本当のこと。あいつ咲良ちゃんにべた惚れだから。僕は片思いのときから執着してたのを見てるからね」
「……本当ですか?」
「もちろん、振られたって凹んでるのを慰めたこともあるよ。嘘はついてない」
 朔朗は真面目に頷く。
 彼の口から出た言葉は、思いがけないものばかりだった。
(べた惚れとか片思いとか……颯斗さんがそんなに私のことを?)
 本人の口からも聞いたことだが、他人から聞くのはまた違う。
「あの、その話を詳しく聞きたいです」
「うーん、それは無理かな。これ以上しゃべったら颯斗に制裁されそうだから。気になるなら本人に直接聞くといいよ」
「え、そんな……」
 言いかけたなら最後まで教えて欲しい。
(颯斗さん本人に片思いしてたときの様子を教えてください、なんて聞ける訳ないじゃない)[954]
 それに客観的な意見が聞きたいというのもあった。
「中途半端でごめんね。でも話したことは誓って本当。だから五葉瀬奈が何か言って来ても咲良ちゃんは気にしなくて大丈夫だからね」
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