気高き敏腕CEOは薄幸秘書を滾る熱情で愛妻にする
「……ありがとうございます」
(朔朗さんは私が瀬奈さんのことを気にしていると思って、元気づけてくれたのかな)
「うん。自信持ってね」
「そうですね。出来れば穏便に解決して欲しいんですけど」
「不安なのは分るよ。でも本当に大丈夫。颯斗は瀬奈を心底苦手にしてるから。渡会家と五葉家は昔からの付き合いだけど、颯斗が親しくしていたのは瀬奈じゃなくて姉の羽菜の方だしね」
 朔朗が何気なく発した羽菜という名前に、咲良はびくりと肩を揺らした。
「颯斗さんと羽菜さんって、昔から親しかったんですか?」
「そうだよ。僕も含めてよく顔を合わせていた、幼馴染のようなものかな」
「そうなんですか……私は羽菜さんがお父様の指示でワタライワークスに出向して来てからの関係だと思っていました」
 なぜなら羽菜自身がそう言っていたのだ。それに個人的な繋がりがあるようなニュアンスは一切なかった。
(だったらあの時の颯斗さんと羽菜さんは、プライベートの話をしていたのかな)
 だから咲良には内容を話せなかったのだと考えると納得がいく。
「咲良ちゃん、どうかした?」
 暗い顔をしていたのだろうか。朔朗が心配そうに眉を下げる。
「な、何でもないです……ちょっとぼんやりしてしまって」
「飲みすぎかな。水を貰おうか」
「いえ、まだ大丈夫です」
「そう。颯斗が心配するから飲みすぎないでね……そうだ。あれから副社長はどうなった?」
 朔朗の家に挨拶に行ったとき、副社長の襲撃についてさらりと話した。そのとき彼は憤慨していたけれど、その後も気にしてくれていたようだ。
「被害届を提出したんですけど、不起訴になる可能性が高いので示談になるかもしれないです。颯斗さんがやり取りしてくれているんですけど、私に近付かないようにしてくれるそうなので安心してます」
「颯斗が動いてるなら大丈夫だな。あいつは咲良ちゃんのためなら、日本から追放くらいしそうだ」
「さすがにそこまではしないと思いますよ」
「いや、あり得るから。昔から怒らせると怖いんだよな」
「怒らせたんですか?」
「まあ、結構な回数?」
 その後は思い出話など楽しい話題に興じた。
 朔朗に送って貰い帰宅したのは午後十時。颯斗はまだ帰っていなかった。
 シャワーを浴びて寝る準備を整えても帰る気配がない。
 咲良は【お休みなさい】とメッセージを送り、ひとりで眠りについた。

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