気高き敏腕CEOは薄幸秘書を滾る熱情で愛妻にする
 年末に向けて社内は慌ただしさを増して来た。
 颯斗の帰宅も徐々に遅くなっている。
 特にここ数日は仕事後オフィスの外で、法律と経済に詳しい知人と会ってアドバイスを受けているとかで、帰宅が遅い。
 詳しいことは教えて貰えないが、何か新しいことを始めようとしているようだ。ある程度形になるまで水面下で動きたいそうで、咲良にも何も話してくれないから、結構寂しい。
 とは言え、彼が咲良に対して冷たくなったとか、素っ気ないなど悪い変化はとくにない。
 自宅にいるときは愛情表現をしてくれているし、一週間に二度は体を重ねている。
 オフィスでは仕事以外で話す機会はあまりないが、それでも気を配ってくれていることは伝わってくる。

「咲良さん、今日颯斗さんは帰社するの?」
「あ、羽菜さん。颯斗さんなら外出先から直帰する予定ですよ。急ぎの用件がある場合は携帯の方に」
「分かった、あとでかけてみるね」
「はい」
 咲良は何の用件か聞きたい気持ちを抑えて、相槌を打った。
 羽菜が颯斗と幼馴染だと知った日から、彼女の様子を気にしてしまっていた。
 ふたりは幼馴染と知られないように、わざと距離を置いているように見える。以前より観察するようになり気付いてしまった事実。
 他の社員や咲良に遠慮しているだけだろうか。でもそれならどうして幼馴染だと言う事実を咲良にまで隠しているのだろう。
 咲良には父親の指示で颯斗の元で働いている瀬奈の姉だと、むしろ気まずい関係のように話しているのに。
 ときどきもやもやした気持ちが募り、はっきり聞いてしまいたくなる。
 でもそうすることで気まずくなったら仕事にも夫婦生活にも影響しそうで、聞く決心がつかずにいる。

 イレギュラーな来客対応などをこなし、気付けばあと十八時の定時を五分過ぎていた。
 金洞商会のときのような終礼などはないので、皆それぞれの仕事をしている。
 そんな中、誰よりも先に羽菜が席を立った。
「咲良さん、私、今日急いでるから帰るね」
「はい、お疲れさまでした」
 いつも遅くまで残っている彼女にしては珍しいなと思いながら、足早にフロアを出て行く後ろ姿を見送る。
 その後一時間程作業をしてから咲良も退勤した。
 エレベーターで一階まで降りて、総合受付の前を通り地下鉄の駅に向かう。
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