気高き敏腕CEOは薄幸秘書を滾る熱情で愛妻にする
(はあ……私って……)
 そんな事になっているとは思いもせずに、ひとりでモヤモヤしているなんて情けない。
 颯斗が返ったら今見たことを伝えて、話し合おう。そして咲良も一緒に瀬奈に立ち向かわなくては。
(出来れば関わりたくないけど)
 自己主張が強く行動的で、話が通じない人だと感じた。瀬奈について考えると以前散々苦労した金洞副社長を思い出す。
 外見は全く違うけれど、中身は似ているのかもしれない。
 だったら尚更、時間が解決するなんて考えは通じないタイプのはずだ。
 咲良は決心して家に帰った。

「ただいま」
 颯斗が帰宅したのは十一時過ぎだった。
 疲れが顔に出ているのに咲良の顔を見ると嬉しそうに笑ってくれる。
 その様子だけで、颯斗の想いが伝わって来る。
「お帰りなさい」
「待っていてくれたんだな。ごめん遅くなって」
「大丈夫。颯斗さん疲れてるでしょ? お風呂沸かしてあるので入ってください」
「ありがとう。咲良は先に休んでいていいからな」
 颯斗はスーツの上着を脱ぎながら言う。
「ううん、話したいことがあるから起きて待ってます。颯斗さんが落ち着いたらでいいから」
 嫌な予感を覚えたのか、颯斗の表情が僅かに曇った。
「……分かった」
 颯斗は入浴を終えると、咲良が待つリビングに来てくれた。
「お水でいい?」
「ああ、ありがとう」
 グラスにミネラルウォーターを用意して、ソファに並んで腰を下ろす。
「何か有ったのか?」
 颯斗が心配そうに咲良を見つめる。
「実は仕事を終えて帰る途中に、羽菜さんと瀬奈さんが言い争っているところを見かけたんです。羽菜さんからその件について聞きましたか?」
 もしかしたら羽菜から電話があったかもしれないと考えたが、颯斗は初耳のようで眉間にシワを寄せる。それは咲良の説明が進むのと比例するように深くなり、最後は彼の端整な顔にくっきり一本の溝が出来てしまうのではないかと心配になる程だった。
 つまりものすごく機嫌を悪くしている。
 彼は話を聞き終えると、はあと特大の溜息を吐いた。
 けれど咲良と目が合うと、心配そうに眉を下げた。
「嫌な想いをさせたな。大丈夫か?」
「大丈夫。瀬奈さんの話は羽菜さんが否定していたので。それに今颯斗さんが私を心配してくれているのが伝わって来て、瀬奈さんの言葉が嘘だってはっきり分かりました」
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