気高き敏腕CEOは薄幸秘書を滾る熱情で愛妻にする
 颯斗はほっとしたように微笑む。
「そうだ。瀬奈の言葉は妄想だ。俺は絶対離婚しないし、瀬奈を雇うつもりもない」
 頼もしさを感じる程、颯斗ははっきり言い切った。
「でも何もかも拒否して大丈夫なのか心配です。 瀬奈さんのお父様はワタライワークスにかなりの出資をしているんでしょう?」
「そうだが、うちへの出資は五葉さんにとってもビジネスだ。娘可愛さに出資を止めるとは考えづらい」
「たしかに、今期もかなりよい結果が出そうだと聞きました」
 颯斗は頷く。
「だた、ワタライワークスとしては、いつまでも五葉さんに当てにするつもりはないんだ」
「そうなんですか?」
「会社を運営する為の資金を調達するために出資者は必要だが、経営方針に出資者の意向が影響するデメリットがある。特に今は五葉さんの出資率が高く彼の言葉は無視できない。俺はそれは好ましくない状況だと思ってる」
「雇用まで口出し出来るんですものね。羽菜さんも初めは五葉さんの意向で雇い入れたって聞きましたし、今度は瀬奈さんまで」
「そうだな。ただ羽菜の場合は少し違う。俺と羽菜でそうなるように仕向けたんだ」
「え、それはどういう……」
「羽菜は瀬奈と違って父親との関係がよくなくて影響下から抜け出したがっていた。俺の方は五葉氏の言いなりの人間が出向して来るのは避けたかった。細かく口出しされるのは面倒だからな。利害が一致したということだ」
「そんな事情が……」
「彼女には皆のサポートを頼んでいたが、いつの間にか馴染んでいろいろ出来るようになっていた。今ではタライワークスの一員として立派な戦力になってくれた」
「そうですね。私が入社したときもあれこれ面倒みてくれたもの」
 ベテランと言えるくらい社内の細かいところにまで精通し、同僚ともよくコミュニケーションが取れていた。
 咲良が会社に馴染めたのは羽菜の助けが大きい。
「……それなのに、疑ってしまって本当に悪いことしちゃったな」
 ぽそっと呟くと颯斗が不思議そうに首を傾げる。
「なんのことだ?」
「実は颯斗さんと羽菜さんがひそひそ話しているところを見たり、幼馴染の関係だって聞いてモヤモヤしていたんです」
「ひそひそ話? 悪い、覚えていないな……幼馴染だって言うのは誰に聞いたんだ?」
「朔朗さんですけど」
「朔朗?」
 颯斗が一瞬にして顔色を変えた。
「どこでそんな話をしたんだ?」
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