気高き敏腕CEOは薄幸秘書を滾る熱情で愛妻にする
「え、この前霽月で偶然会った時に……」
「聞いてない」
「あれ、そうでしたっけ? あの、颯斗さんの帰りが遅いときにひとりで飲みに行った日のことなんだけど」
 急に不満顔になってしまった夫に、咲良は内心慌て出す。
(自分の幼馴染に会ったのに秘密にしていたと知ったら、気分を損ねても仕方がないよね)
「ごめんなさい。他のことに気を取られていたのかすっかり報告した気でいたみたい」
「いや、謝らないでくれ。俺が勝手に嫉妬しただけだ」
 颯斗は顔を合わせているのが気まずいのか、咲良の肩に腕を回し引き寄せる。
 広い胸に持たれる形になり、お風呂上りのよい香りが鼻腔を擽った。
 心地よくてそのまま彼にもたれ掛かり、目を閉じる。
「颯斗さんが私のことで嫉妬するなんて不思議な気がします」
 完璧で優しい彼は、瀬奈が言っていた通り咲良にはもったいないくらいの旦那様だ。
「不思議でもなんでもない。咲良に見せてないだけどいつも嫉妬しまくりだ」
「まさか」
「この前なんか、笑顔で打合せをしている咲良に見かけていらっとした。他の男に笑いかけるんじゃないって」
「他の男って、自分の会社の社員なのに」
 咲良は思わず吹き出してしまった。敏腕CEOが密かにそんな嫉妬をしているなんて、社内の誰も想像出来ないだろう。
 冗談で言ってるのだろうが、咲良の気分を明るくする為に言ってくれているのは事実で、その気持ちが有難い。
「でも私の方が嫉妬深いかも。羽菜さんにすら不安になっちゃうんだから」
「嬉しいけど本当に羽菜とはなんともない。羽菜の方も俺を異性としては見ていないんじゃないか? 彼女と初めて会ったのは中学に入った頃だったが、当時から淡々とした関係だったな。むしろ朔朗との方が仲が良かった」
「そうなんですか。幼馴染って言うからもっと昔からの仲だと思ってました」
「朔朗はもっと言い方を考えた方がいいな……とにかく彼女については全く心配いらないからな」
 颯斗が少し体を離して、咲良の目を見つめて来る。真剣な様子から誠実さが伝わって来た。
「はい」
「会社についても大丈夫だ。五葉さんが文句を言えないような利益を与え、しっかり恩を返したうえで、今後の経営から遠ざけるために今動いているから。最近帰りが遅いのはその為の勉強をしているんだ」
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