拾われデザイナーと魅惑のランジェリー 〜副社長は名ばかり婚約者を溺愛中〜

1 捨てる担当あれば拾う副社長あり

「金額、もう少し抑えられません?」
「この間はこの金額までならっておっしゃってたじゃないですか!」

青山にあるブライダル企業・タチバナブライダルの会議室で、縫製工房で働くデザイナーの私は企画担当者と揉めていた。

桜倉(さくら)さんの工房は、単価が高いんですよ。昨今の結婚式はコスパ重視や晩婚化の影響で、ドレスも高価なものは需要がなくなってきてるんです」
「でも、うちの工房はずっとこの値段でやってきたんです。これでもぎりぎりの予算で――」
「削れるでしょう、人件費」

企画担当者が目を細め、眉間にしわを寄せた。眉間にしわを寄せたいのは、私の方だ。

「うちの刺繍は手作業なんです。この技術を持つ職人の給料を削れとおっしゃるんですか?」
「刺繍の技術なんて、いつかAIとロボットに置き換わってしまいますよ」

――だめだこの人、何もわかってない。

ウェディングドレスにきらめく刺繍を何日もかけて入れ込むのは、職人技だ。一目一目丁寧に縫い込んでいくだけでない。パターンによって、生地の端の処理によって、生地を縫い上げる際のラインによって、それぞれほんの僅かに力加減を変える必要がある。

工房で働く従業員の巧みな技術を見もしないで、AIとかロボットだなんて。
頭に血が上り、勢いよく立ち上がるとデザイン案の乗ったテーブルを叩き、思わず口走った。

「だったらこの契約も、今後の一切の契約も、貴社とはお断りさせていただきます!」

勢いに任せて、そのまま会議室を出た。
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