拾われデザイナーと魅惑のランジェリー 〜副社長は名ばかり婚約者を溺愛中〜
その後、退勤すると止めるも虚しく崇臣さんが我が家へついてきた。工房のすぐ隣にあるアパートの玄関の扉を開けると、崇臣さんは途端に笑い出す。

「そんなに笑います!?」

言い返したが、女性の一人暮らしにしては酷い、と自分でも思う。
1Kの部屋の中は、ベッドと作業台とトルソーが所狭しとせめぎ合い(これは作業台が大きすぎるせいである)、床の上にはデザイン画や布が広げられている。崇臣さんをお上げするスペースもない。

「これでも、どこに何があるのかはある程度把握してますから!」
「『ある程度』ね」

崇臣さんはクスクスと笑い続けている。

「琶月は本当にここで生活してるの?」
「はい。といっても、ほぼ寝てるか作ってるかなので」
「だろうね、見れば分かる。本当に好きなんだね」
「はい」
「少し上がってもいいかな? 琶月のアトリエを作る参考にしたい」
「あの、アトリエ……本当にいいんですか?」
「もちろん。婚約者になって欲しいなんて、身勝手なお願いだからね。できる限り、琶月には快適に過ごしてもらいたい」

笑いを収めた崇臣さんは、今度は優しく微笑む。トクンと、胸が甘く鳴った。

いやいや、これは愛のない婚約だから!
私が〝快適にデザイナー業をする〟為だから!

慌てて足元の布やらデザイン画やらを拾い上げ、通れる隙間を作る。崇臣さんは一通り部屋を見て、「荷物は今夜中にできるだけまとめておいて」と言い帰っていった。
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