拾われデザイナーと魅惑のランジェリー 〜副社長は名ばかり婚約者を溺愛中〜
ランチ後も私の勉強は続いた。最初は刺々しい視線を送っていた社員さんも、質問をすれば普通に返してくれる。皆、服飾が好きで、この仕事が好きなのだろう。仲間だ。

やがて就業時間になったらしい。ぽつぽつと、「お先です~」と帰る社員さんもいる。
そんな中、私に話しかけてきた女性社員が一人。

「あなた、その格好どうにかならないの?」

彼女は、私のことを『作業着女』と呼んでいた人だ。

「これ、機能性は抜群なんですよ。シンプルなので作業の邪魔にならないですし、ポケット多いですし!」
「でも、その格好でSJHをうろうろされると、うちのイメージが落ちるのよね。副社長のイメージも落ちるんじゃないかしら」

そんな考えに、至りもしなかった。

「その通りですね! ご忠告ありがとうございます!」

名ばかりでも、婚約者は婚約者だ。彼のイメージを崩すようなことはよろしくない。
素直に頭を下げると、彼女は「別に」と言いながら帰って行った。

今日、帰ったら買い物に行った方がいいかもしれない。そう思っていると、崇臣さんがやってきた。

「調子はどう?」
「とても楽しいです!」
「そう」

崇臣さんは、昼と同じように肩を揺らして笑いを零す。私は何か変なことを言ったのだろうか。

「俺が助けるまでもなかったな」
「助けてもらったから、今ここにいるんですよ?」

言えば、崇臣さんはキョトンとして、また喉の奥を鳴らして笑った。

「ああ、そうだね。そろそろ帰ろうか。我が社は17時半が定時なんだ」
「そうなんですね」
「引越も無事終わってるって連絡もらった。琶月のアトリエもできているよ」
「アトリエ……!」

崇臣さんの言葉に、私はルンルン気分で彼について会社を出た。
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