拾われデザイナーと魅惑のランジェリー 〜副社長は名ばかり婚約者を溺愛中〜
――やっちまった。

タチバナブライダルから出た瞬間、私は頭を抱えしゃがみこんだ。

いくら頭にきたとはいえ、我が工房の太口の顧客に、喧嘩を売ってしまった。そのうえ、契約を突っぱねてしまった。

私の勤める(なつめ)ソーイング工房は従業員が15名の小さな縫製工房だ。私はそこで、デザイナー兼パタンナー兼刺繍職人その他諸々、を任されている。

タチバナブライダルとの取引が我が工房の主な収入源で、今日は新作ドレスの契約だった。この契約を勝ち取って「工房の未来はまだ安泰だ」と社長に言わせる予定だったのに、まさかこんなことになるなんて。

いよいよ、工房が倒産するかもしれない。私のせいだ。
けれど、落ち込んでいても仕方ない。とにかく、社長に報告しなくてはと立ち上がる。

目の前に、モデルのように美しい男性が立っているのに気がついた。タチバナブライダルのショーウィンドウを、じっと覗いている。

もうすぐ結婚式でも挙げるのだろうか。パートナーのドレス姿を想像しているのかもしれない。
でもあなた、少し遅かったですよ。

「そのドレス、もうお直しできませんよ」
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