拾われデザイナーと魅惑のランジェリー 〜副社長は名ばかり婚約者を溺愛中〜
その日、崇臣さんから帰りが遅くなると連絡があった。帰宅後、私は夕飯をいただくとアトリエへ向かった。崇臣さんがいないから、というわけではないが、私は作業台の上に乗っていたサンプル生地を端に寄せ、過去のデザイン画を開いた。

過去に製作したドレスたちの絵を見ていると、どうしてもため息が零れてしまう。最後のドレスを納入した皆の顔を思い出し、自分を許せなくなる。ドレスを工房から取り上げてしまったのは、私なのだ。

引越の際に、段ボールにひっそりと忍ばせた作りかけのドレスをトルソーに掛けた。誰に見せるわけではないが、つい肩に薔薇のモチーフを作ろうとか、レースのここに刺繍を通そうとか、意味のないことを考えてしまう。

ここに宝石を散らしたいな。こっちは光沢のある生地を下地に入れ込んで、奥行きを出したいな。

気がつけば、勝手に手が動いていた。生地を裁断し、縫い上げ、イメージを具現化してゆく。

けれど途中で、ふと我に返った。
誰の為でもない、私の気持ちを落ち着かせるためだけのドレス。こんな身勝手なドレスに、何の価値があるのだろう。

縫い糸の処理をしながら、涙が溢れてきてしまった。
どうすることもできないこの気持ちを、使い道もないこのドレスが現しているようで、虚しい。こうなってしまったのが自分のせいであることが、悔しい。

「みんな、ごめんね」

床にへたり込み、顔を覆ってむせび泣いた。
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