拾われデザイナーと魅惑のランジェリー 〜副社長は名ばかり婚約者を溺愛中〜
「はぁ!?」

思わず大声を上げたところで、車が静かに動き出す。

「『婚約者』とおっしゃいました?」
「ああ」
「ビジネスのお話ですよね?」
「そうだよ?」
「なんでビジネスに婚約が出てくるんですか!」
「婚約はビジネスにおける常套手段だと思うけれど」
「私にそんな価値はありません! 私に利益があるとも思えないし――」
「十二分にある。君は契約を突っぱねてしまって困っているだろう。俺と婚約してくれたら、新規に立ち上げるブランドの下請けを君の工房に任せるよ」

副社長さんはにこっとこちらに笑いかけた。

「君の工房の刺繍技術は見事だ。それを新ブランドのランジェリーに活かしてほしいと考えている。そして君は、自社の刺繍技術に自信とプライドを持っている。君に新ブランドと君の工房との橋渡し役を任せたい」
「それと婚約に何の関係が――」
「俺は社長の弟、ひいてはグループ代表取締役の息子。社内外問わず女性からのアピールに大変困っている。君は元請けに啖呵を切るほど強く、自分の軸がある。見せかけの婚約にはちょうどいい」
「見せかけの、婚約……」

つまり〝名ばかり婚約者〟というわけか。
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