恋の病に、堕ちてゆく。
「加奈ちゃんが、投げ出さなければ意味はあるんじゃない?」

そんな適当な返事しかもらえなかった。

発信機を捨てて大声で助けを呼べば通行人に気付いてもらって、逃げられるかもしれない。

でもそうしたらお父さんはどうなるのだろう?お母さんだって自由の身ではないのだから、私が逃げたことで2人に被害が及ぶかもしれない。

私がもっと幼い子供だったら何も考えずに逃げ出したかもしれないけれど、リスクが伴う以上は身勝手なことはできないよ。

はぁ…お父さんとまた話せないかな。
お母さんの声も聞きたい。


「それじゃぁ、行こうか」

「はい」


もう見慣れてしまった廊下を歩き、最奥の玄関で立ち止まる。そこには私が履いていたスニーカーが置いてあった。捨てられてなくて良かった。
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