恋の病に、堕ちてゆく。
自分で拭きます、と言いたいところだけど残念ながらハンカチを持っておらず、されるがままになる。

ぽんぽんと、優しく頬も拭いてくれた。

恥ずかしくなり、照れ隠しに口を開く。

「ありがとうございます。お洋服も濡れてしまってごめんなさい」

妹さんに怒られないかな…。


「イルカショーは動物愛護的には厳禁で、この水族館でも今月中に取り止めるらしいんだ」

「そうなのですか?えー、残念」

初めて知った。他の水族館でもイルカショーを見たことはあるけれど、とにかく可愛らしくて見応えがあった。なくなっちゃうのは寂しいな。


「家族で水族館に来た時も、必ずショーを見ていました」

「うちの妹も好きで、よく付き合わされたよ」

仲が良いんだな。

「だから、最後のイルカショーを加奈ちゃんと見ることができて良かった」

「……」

私も見ることができて良かった。そう心の中で呟く。

ーーできれば、誘拐犯ではない"青波"と見たかったよ。
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