恋の病に、堕ちてゆく。
ベンチに座ってピースサインを繰り出している私と、クマのぬいぐるみを待っている見知らぬ女の子の写真だった。

私は小学校高学年で、もう1人の女の子は少し大人っぽく見えるから年上だろう。


「こっちが妹さん?」

思い出せない。でもこの場所は知っている。近所で最も大きい病院だ。

「うん」

「確か、学校の階段から落ちて、検査のために病院へ…」

「覚えてないのも無理ないよ。2人が会ったのはこれが最初で最後だったし。加奈ちゃんは、病気で苦しむ妹のために、こう言ってくれたんだ」


思い出したいけれど、こんな場面もあった気がする程度の薄い記憶しか残っていない。


「私のお父さんは天才研究者だから、あなたの病気もきっと良くなるって」


その言葉なら、覚えている。
幼い頃の私は全ての病気が父が治せると本気で信じていたし、口癖のように語っていた。
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