恋の病に、堕ちてゆく。
「おまえは、なにも分かってない」


大我に冷ややかな視線で見下ろされる。


「なにもって…」
「青波さん!!!」


私の言葉は、四季の叫びによって掻き消された。

2人掛けのソファーの右側に座っていた青波の身体が左に傾く。


「あー、悪い」

四季の声にハッとしたように体勢を直した。


「…ちょっと限界かな。四季、救出箱を持って来て」


そう言って黒いジャケットを脱いだ青波の白いシャツは真っ赤に染まっていた。

脇腹を中心に鮮血が、染み込んでいる。


「私を庇ったせいで…」


あの時だ…。
男に銃口を向けられた時、覆い被さるように青波は私を守ってくれたんだ。


「ごめんなさい」

「加奈ちゃんはなにも悪くないよ」

そう言ってくれた声は、いつもの優しい青波のものでひどく安心した。
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