恋の病に、堕ちてゆく。
「おかしな話なんですけど、少しだけ名残惜しいって思ってます。もう青波さんと、こうして話すこともないかと思うと寂しいです」

「それは俺たちが偽の誘拐犯だと分かったからでしょ?」

「そうなんですけど…。あの、どうして、私を水族館に連れて行ってくれたんですか?」


私を守ることが仕事であるのなら、わざわざ外に出てリスクを増やすこともなかったはずだ。

「四季が加奈ちゃんに外出しようと誘った日に、犯人が逮捕されたんだ。だからもう安全かと思い、水族館に行った。もちろん事前に水族館内の脱出ルートを調べたり、道中の下調べもきちんと行ったよ。加奈ちゃんはもうお父さんの元に帰れると思っていたから、お母さんのことを知る前に気晴らしになるかなって思って」

アジトを変える気だとか疑ってしまっていたけれど、私のためだったんだ。

青波が起き上がり、こちらを向いてくれたので私もそれに倣う。

「それから主犯格の男がまだ逃走中と分かり、また厳戒態勢に入ったんだ。そして今朝、隣りの家に押し入る怪しい男1人を防犯カメラで確認できたから、その話を先生にも共有してしまったんだ。その結果、あんなことになってしまった。こちらの不手際で怖い思いをさせて、ごめんね」

「……大丈夫です。私こそ、ごめんなさい」

「加奈ちゃんはなにも悪くないよ。命の危険を感じたら、すぐに逃げること。これは基本だから」

「はい」
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