恋の病に、堕ちてゆく。
警戒心丸出しな私に男は笑った。


「これからずっと飲み食いしないつもり?外に出るより先に、死ぬよ?」


ーー死ぬよ。

たった今、過呼吸を起こしていた人間に対して平然と言ってのける遠慮のなさ。

どこまでも悪人だ。


「ほら、」

「いらない!」

誘拐犯の言いなりになることが悔しくて、勢いよくペットボトルを腕で払うと、音を立てて床に転がった。


「へぇ、そういう態度に出るんだ」

気怠(けだる)げペットボトルを拾い、今度はキャップを開けて私に差し出した。

しつこい!


「無理矢理、口移しで飲ませてあげようかな」


は?口移し?
聞き馴染みのない言葉に、急に寒気を覚えた。

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