幼なじみの不器用な愛し方
菊池は大人だから何も言わないけど……本当に止めていただきたい悪癖だよ。


「少しは菊池のこと見習ってくれたらいいのに」


口をついて思わず飛び出した言葉。

無意識のうちにぽつりと呟いた声は自分自身にも届かないような声量だったはずで、しかし有斗はソファー越しに再びこちらを振り向いた。


「菊池菊池って、うるせぇな」


テレビの賑やかな音に混じって、低い声が静かに響く。

うまく聞き取れなくてカレー皿から視線を上げると、ソファーから立ち上がりこちらに歩いてきた有斗と視線が絡んだ。


何、と思ったのも束の間。


「っ!?」


目の前に立った有斗の手が伸びてきて、


「は……はにふんのよ」


すらりと長い指が、私のほっぺを容赦なく掴んだ。

思わず眉間に皺を寄せたあたしを、有斗もまた険しい顔のまま見下ろしている──と思いきや、口元がふっと緩められる。
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