おじさんとショタと、たまに女装
第三章 元カノ

おっさんの大事なコレクション


「いいから早く出せよっ! 証拠をさ!」

 と涙目で叫ぶ、航太。
 一体、なにをここまで必死になっているんだ?
 わからん……。

「証拠って例えば?」
「そ、そうだ……彼女っていうんなら、連絡先。L●NEとか」
「ああ。それならあるさ」

 別れたからと言って、絶縁したわけじゃない。
 相手はどう思っているか知らないが……。
 俺は“あいつ”を嫌いになって、別れたんじゃない。自分が釣り合わない男だって思ったから。
 仕方なく、俺から別れを切り出したに過ぎない。

 だから今でも思い出は、大事に残している……。
 電話番号にメールアドレス、L●NEや各SNSもお互いにフォローし合う仲だ。
 ジーパンのポケットからスマホを取り出すと、アドレス帳を開く。
 開いてすぐに、あいつの名前が出るように設定してある。

 未来と書いて、みくる。
 それが俺の付き合っていた彼女の名前だ。

「これでいいか?」

 航太にスマホを突き出したは良いが、頬が少し熱くなるのを感じた。
 なんか元カノと、イチャイチャしているところを、見せつけているような気がして。

「見せて」

 俺の手からスマホを奪い取ると、じーっと眺める航太。
 しばらく黙って見つめていたが。スマホを掴んでいる指が震え始める。
 そして何を思ったのか、鉄骨製の廊下にスマホを叩きつけた。

「なっ!?」
「こんなの、ウソだっ! おっさん。男友達のアドレスを、女の名前に変えたんだろ?」
「……なんでそんな回りくどい嘘をつくんだよ。本当に俺が付き合っていた女の子だって」

 スマホが壊れていないか、急いで拾い上げる。
 どうやら、正常に機能しているようだ。
 しかし、画面に亀裂が入っている……。
 ひどいな。

「じゃ、じゃあそこまで言うなら、写真とか無いわけ?」
 
 割れたスマホの画面を見て、罪悪感を感じているのか、航太は視線を逸らしている。
 そんなに人の元カノが、知りたいかね?
 ため息をついて、数年前の写真を探してみる。
 学生時代にデート帰り、プリクラを二人で撮ったやつがある。
 これならあいつが、俺の腕に手を回しているし、良いだろう。

「ほら、この写真ならもう納得か?」

 再度、航太にスマホを差し出す。
 今度は投げるなよ。

「んん……」
 
 眉間に皺を寄せ、スマホを覗き込む。
 まだ疑っているようだ、唸り声を上げて首を傾げる。

「合成写真じゃないぞ? ほら、二人とも仲良さそうだろ?」

 自分で言っていて、超恥ずかしい。
 過去とはいえ、のろけだからな。

「なんかさ……地味じゃね? おっさんの元カノって」
「そ、それはこいつがファッションとか、あんまり興味なくてだな……」

 彼の言う通り、元カノの未来は地味な女子だ。
 通っていた大学には、芸術学部があって、ある時偶然知り合った仲。
 普段は趣味であるマンガのことしか、考えていないから地味と表現されても仕方ない。
 だが、写真まで差し出したのに、それではあまりにも未来がかわいそうだ。

「ねぇ、おっさん。付き合っただけで、何もしてないんじゃないの?」
「はぁ!?」
「こんな地味女のどこに惚れたの? オレだったら、罰ゲームでも嫌かな」
「……」

 別れたとはいえ、未来は俺が初めて付き合った彼女だ。
 ここまで言われる筋合いは無い。
 というより、彼氏である俺が許せない。
 あいつの素晴らしいところは、全部知っているつもり。
 なら、それを証明してやりたい!

「わかった……そこまで言うなら、航太。俺の家に来いよ」
 
 気がつけば、俺の方がムキになっていた。
 どうしても元カノの名誉を、挽回させておきたいから。

「え? な、なんで……」
「俺の元カノにそこまで言っておいて、逃げるのか? ちゃんと見ていけ。あいつの凄さを教えてやる」
「は、はぁ? なんだよ、ただ地味女だって言っただけじゃん!」
「それが嫌なんだ。部屋にプリントしたあいつのアルバム集があるから、見ていけよ」
「アルバム集? キモい! おっさん、別れてもまだ引きずってんの?」

 航太に指摘されるまで、気がつかなかった。
 元カノを収めた写真集を、長年大事にしている自分に……。
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