おじさんとショタと、たまに女装
このクソロリコン!
「高砂さんも一体、何を考えているんだか……」
近所のコンビニから出ると、駐車場にある喫煙所へ向かいタバコに火を点ける。
「はぁ~」
夕陽でオレンジ色に染まった空へ、白い煙が漂う。
煙が目に染みるから、自然と目を細めてしまう。
半纏を着ているとはいえ、12月だ。
外でタバコを吸うのもしんどい。
この辺で喫煙できる場所も少ない。
公園なんて無いし、居酒屋も店内での喫煙はダメ。
唯一許されているのは、昔から利用している喫茶店のライムだけ。
あとは、コンビニの駐車場ぐらい。
価格だけ上げるくせに、喫煙者には厳しいんだもの……やってられないぜ。
と心の中で、ぼやいていると。
聞き覚えのある甲高い声が聞こえてきた。
「あんまり近づくなって! オレはお前のこと、何とも思ってないんだよっ!」
視線を空から地上におろすと、コンビニの前を通る一人の中学生が目に入った。
低身長で華奢な体型だから、学ラン姿が似合わない。
かなりサイズが大きいようで、ぶかぶか。
制服を着ているというよりも、制服に着られているという感じ。
「いいじゃん、航太くん。引っ越してきたばかりだから、この辺詳しくないでしょ?」
一人の女子中学生が、少年の左腕に絡みつく。
かなり積極的な女の子だ。
嫌がる彼を無視して、自身の胸を肘に当てつけている。
「そんなの頼んでないって! オレ、女とは仲良くなりたくないから、早く帰れよ!」
「えぇ~ 航太くんさ、クラスの子と馴染めてないじゃん。だから私が一番目になりたいの」
「頼んでない!」
なんだ、青春している中学生カップルか……と思ったが。
不機嫌そうに歩いている少年の横顔を見て、ドキッとした。
航太が……女の子と歩いている。
別におかしなことではない。
彼も中学生だし、14歳だ。ルックスも良い方だし、女の子にモテるだろう。
それなのに……なぜ俺の胸は痛みを訴えているんだ?
ショックを受けているのか。
子供だと思っていた彼が、急に大人の階段を上っているようで。
※
気になった俺は、さっさとタバコを灰皿に投げ捨て、二人のあとをつけることにした。
「よう、航太!」と手を振ればいいのに、なぜかこの二人がどうなるか。とても気になる。
堂々と背後に回るのは、気が引けるので。時々、電柱に隠れて監視している。
どうやら、帰る方向が女の子と一緒のようだ。
「ねぇ、航太くんさ。料理とかする?」
「するけど」
「え!? すごい! 私とか全然作れなくてさぁ、ママにシチューを教えてもらったけど。焦がしちゃった」
「……まあ、いいんじゃない? 最初が肝心なんだし」
「嬉しい~ じゃあ今度、航太くん。レシピ教えてくれる?」
「別にいいよ……」
遠目から見れば、中学生同士の愛らしい会話なのに。
あの女の子が航太と仲良くなると思うと……胸が苦しい。
別に悪いことじゃない。
彼だって、友達がいないと嘆いていた。喜ぶべきだろう。
俺みたいなアラサーといるより、ずっと。
※
女子中学生は今度、航太からレシピを教えてもらえると聞いて、喜んでいた。
俺の家でもあるアパートの前で、手を振る女の子。
「またね、航太くん!」
「うん……」
ぎこちない顔で、一応手を振る航太。
俺はと言えば、アパート近くの電柱から彼を監視中。
このまま航太が階段をのぼって、自宅の扉を開けるのを待った方が良い……。
そう考えていたのに、俺の脚は自然とアパートへ向かう。
学ラン姿の航太へ声をかける。
「よう、航太! 見たぞ~ お前、モテるんだなぁ」
動揺を隠すため、わざと年上の男を気取り、からかう。
すると航太は顔を真っ赤にして、怒り始める。
「なっ! おっさん、見てたのかよ!?」
「ああ、コンビニで買い物してたら、二人が仲良く歩いてたからさ。可愛い子じゃないか?」
と肩をすくめてみる。
俺にからかわれて、航太はかなり苛立っているようだ。
小さな肩を震わせて、俺を睨みつける。
「お、おっさんて……」
「へ?」
「おっさんは、あんなペチャパイの女子中学生が可愛いのかよっ!?」
俺は耳を疑った。
「は?」
「見損なったぜ! このクソロリコン!」
「……」
なんか色々と誤解されてしまった。