おじさんとショタと、たまに女装
第四章 女装とお泊り

資料用だから…


「見た感じ、あれって中学生ぐらいだよね?」
 
 航太に指摘されたセーラー服やスク水。
 大人の女性が着るには、サイズが小さすぎると彼は言いたいのだ。
 
「その……あれは今度、書く新作用に編集部から送られてきただけで」
「てことは、エロマンガのモデル?」
「ああ、そうだ」

 皿を洗い終えた航太は、エプロンを脱ぎ、こちらへ振り返る。
 そして頬を赤くしたまま、俺の顔を黙って見つめる。

「……」

 沈黙が続く。気まずい。
 彼は一体、何を考えているのだろう?

「ねぇ、おっさん。その……元カノじゃ、あのセーラー服は無理だよね?」
「へ? ああ、編集からの依頼でな。ロリもの……つまり、未成年のヒロインが良いらしい」
「ふ~ん、じゃあおっさんの周りに、女子中学生はいるの?」
「いや……だから困っているんだ。勝手に送られてきたからな。今度、連絡を取ってちゃんと返却するさ」

 そう言って、カーテンレールからセーラー服を取ろうとした瞬間、航太が叫ぶ。

「待って!」
「え?」

 振り返ると、顔を真っ赤にさせた航太が、目の前に立っていた。
 どうやら緊張しているようで、肩を震わせている。

「お、オレが着たら……ど、どうかな?」
「は?」

 思わず耳を疑った。
 あのツンツンした航太が、これを着るだと?

「おっさんは元カノをモデルにしたんじゃん? なら今回はオレで良くない?」
「!?」

 ちょっと待て……航太は男だぞ。
 それに彼は、女装の趣味でもあるのか?
 航太の顔をまじまじと見つめていると、彼が何かを察したようで、顔を真っ赤にして怒り始める。

「ち、ちげーからな! オレはそんな女みたいな趣味ないぜ!?」
「……なら、どうして?」
「おっさんが困ってるように見えたから……オレと、いつも仲良くしてくれるからだよ」
「それだけで?」
「別に良いじゃん! 友達が困っていたら助けたいって思うのは、普通だろ!?」
「う、うん……?」

 彼の意見を否定はしないが、肯定も出来ない。
 男友達のために、そこまでする野郎は見たことない。
 最近の若い子なら、普通のことなのだろうか?

  ※

 「じゃあ、おっさん。ちょっと着替えてくるから、待ってて……」

 そう言うと航太は、セーラー服を持って、脱衣所に入る。
 脱衣所と言っても薄いカーテンで仕切りを作った簡易的なもの。
 我が家は玄関を開ければ、右手が脱衣所と洗面所だ。
 
 元々、学生時代に引っ越してきた時は、何もなかった。
 でも“あいつ”と付き合っている時「丸見えだから、何かで隠して欲しい」と設置したものだ。

 もし……俺がカーテンを設置してなければ、今ごろ丸見えだったな。
 って、何を考えているんだ。
 相手は男の子だぞ? 着替えているところを見たいなんて、俺はバカか。
 ちょっと待てよ。その考えなら、別に男同士だから見られても平気なのでは……。

 とひとりで考えている間に、カーテンが開いてしまう。

「ど、どうかな? やっぱりおかしい?」

 頬を赤くして、こちらを見つめる少年は……。
 いや、完璧な少女だ。
 髪がちょっと短いけど、ボーイッシュな女の子って感じ。

 紺色のセーラー服に、赤いスカーフ。
 スカートの丈は長めで、膝下まである。
 だがそこが真面目っぽくて、魅力を感じる。

 その姿を見た俺は、言葉を失っていた。

「……」
「ねぇ、おっさん? どうしたの?」

 距離を詰めて、下から俺を睨む航太。
 身長差があるから、どうしても上目遣いになる。
 大きなブラウンの瞳に吸い込まれそうだ。
 思わず、生唾を飲み込む。

 何を考えているんだ、俺は……。
 この子は航太。男の子だぞ?
 あれかな。もう何年もご無沙汰だから、感覚がおかしくなっているのか。

「ところで、どうなの? おっさん?」

 俺のことなぞ、お構いなしに下から覗き込む航太。

「ああ……すごく、可愛いよ」

 つい見惚れてしまい、本音がポロリとこぼれる。

「え?」

 俺の回答に航太まで驚き、固まってしまう。
 ヤバい、このままじゃ変に思われそうだ。

「いや、そういうんじゃなくてさ。久しぶりにセーラー服を見て、可愛いなって」

 かなり無理のある言い訳だった。
 しかし航太もなにかを感じ取ったようで、慌てて話を合わせる。
 
「そ、そうだよね! おっさんはもう30歳になるから、セーラー服とか見る機会ないもんね」
「うん。だから嬉しいというか……しばらく見てたいというか」
「え……?」
 
 また墓穴を掘ってしまった。
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