おじさんとショタと、たまに女装
人違い
初めて挑戦したロリマンガの原作だが、編集の高砂さんから大絶賛してもらえた。
ただヒロインについて、あらぬ疑いをかけられてしまったが。
実際に存在している女子中学生を、モデルにしているのではないか? と。
まあ男子中学生の少年。航太をモデルにしているから、問題はないだろう。
別に彼といやらしい行為を、したわけでも無い。
少しアイデアに協力してもらったが、あとは俺の妄想を膨らませただけ……。
※
無事に原稿料を支払って貰えたということで、さっそくコンビニへ買い物に出る。
半纏を羽織って、サイズの合っていないジーンズを履く。
一応、靴下を履いてはいるのだが、くるぶしが出てしまう。
別におしゃれで出しているわじゃない。
これ一本しか、ジーンズを持っていないからだ。
学生時代、元カノの未来に誕生日プレゼントとして貰ってから、ずっと履いている。
貰ったのが、20歳になる年だったのだが……。
一年で身長が7センチも伸びたため、ロールアップしたような状態になっている。
貧乏な俺からすると、嬉しくない成長だ。
いつものように、コンビニで芋焼酎とウイスキー瓶をカゴに入れ、つまみを選ぶ。
今日は寒いからおでんにしようか……と、カウンターを眺めているとあるものに目が移る。
肉まんだ。
航太のやつ、こんな寒い日でもまたアパートの冷たい廊下に座っているんだろうか。
また買っていくか。
正直、アプリくじの当たりという嘘が、いつかバレそうで怖いが。
※
パンパンに膨れた白いビニール袋を持って、自宅のアパートへ向けて歩き始める。
今日はどんな格好をして、彼は座っているのだろうか?
また女物のトレーナーワンピースでも着ているのかな。
この前、航太が家に泊った時。気になった俺は彼に質問をした。
「なんで女物しか着ないのか?」と。
すると彼は、当たり前のように答えた。
「だって、母ちゃんのお下がりだもん。細いのを着たがるけど、胸がきついらしいよ?」
何とも、母親想いの彼らしい答えだ。
綾さんが着られないからと言って、息子が着るものなのか?
航太に渡す、綾さんの神経も疑う。
と考えていると、アパートが見えてきた。
俺の考えていた通り、二階の廊下に一つの影が目に入る。
体操座りをして俯いている。
俺は急いで錆びた階段を駆け上がる。
早く彼に、肉まんを渡したいからだ。
「おい、航太。またこんなところで暇つぶしか?」
と彼の小さな肩を掴もうとした瞬間。
ある違和感に気がつく。
それは背中だ。航太にしては、広い。
ファッションも全然違う。
紺色の大きな襟……どこかで見たことあるような。
そうだ。この前、航太が着たセーラー服に似ている。
「あ、翔ちゃん! おかえり!」
こちらへ振り向いたのは、男子中学生ではなく。
航太より年上の女子高生だ。
俺はその顔を見て、ため息をつく。
「はぁ、なんだ……葵か」
「なにその反応!? 酷くない?」
黒崎 葵。
年の離れた、俺の妹だ。
※
玄関に入ると、部屋の灯りをつける。
キッチンの上にビニール袋を置いて、サンダルを脱ぎ捨てる。
「ほら、お前もさっさと入れよ」
と後ろを振り返ると、妹の葵が玄関に座り込む。
何をしているかと思ったら、俺のサンダルを綺麗に並べていた。
「もう、翔くんって本当にだらしない。だから未来さんに振られたんじゃないの?」
「いや……あいつは、関係ないだろ」
「関係あるよ! キッチンだって……あれ? 綺麗だね」
葵に指摘されるまで、気がつかなかった。
今までとの違いに。
航太が隣りに引っ越して来てから、よく洗い物や掃除をしてくれる。
だから年中、ゴミだらけの汚部屋が、別人が住んでいるように綺麗さっぱりだ。
「その……たまに友達が片づけてくれるんだ」
「友達? そんな男の人なんている~?」
どこか意地の悪い顔をして、玄関にあがる葵。
そして、キッチンにある鍋や調理器具を眺める。
「本当だって。すごく優しい子でさ、この前なんか、おでんを作ってくれてさ」
「ふ~ん」
俺の話など無視して、航太が買い直したフライパンを手に持つ。
メーカーのロゴなどを確認すると、振り返って微笑む葵。
「翔くん、隠さなくても良いよ。未来さんとよりを戻したんでしょ?」
「は……?」
「料理だけじゃない。隅々まで部屋が綺麗に整理されているし。見ればわかるんだよねぇ」
「なにがだ?」
「女の匂いってやつ!」
そう言って、ビシっと人差し指を俺の胸元へ指す。
航太は間違いなく、男の子なのに。
女として見られているようだ……。