おじさんとショタと、たまに女装

あやまち


「はぁ~ いつもひとりで入るから、なんだか新鮮だな」

 と呑気に背伸びをして見せる航太。
 唯一、救いがあるとしたら、彼がこちらに顔を向けていないこと。
 腹の上に跨っていても、背を向けているから、俺の顔を見ることは出来ない。

 今、こちらを見られると、色々とまずい。
 あの大きなブラウンの瞳で、見つめられると理性がぶっ壊れてしまいそう。
 現に今も、彼の小尻を押しつけられているだけで、少し反応している……。
 航太にバレる前に、早くこの場から逃げないと。

 
「なぁ、航太……悪いんだけど。俺だけ、先に出てもいいか?」
「え? なんで?」
「その……ちょっとのぼせてな」

 身体の一部に熱がこもっているのは、間違いない。

「えぇ、もう上がっちゃうの?」

 と寂しそうにこちらを見つめる航太。
 いかん、そんな目で見つめられると……もう無理だ。
 そう思った俺は、力強くで航太を押しのける。
 これ以上、理性を保てない。

「うわっ! なにすんだよ!」

 いきなり浴槽の中に放り込まれた彼は、当然怒り始める。

「わ、悪い……ちょっと頭が」
「え? 頭が痛いの?」
「そんなんじゃないさ……」

 浴槽から出て、すぐに扉へ手をかけようとしたその時だった。
 航太の叫び声が浴室に響き渡る。

「おっさん!」
「え?」

 振り返ると、涙目の航太が浴槽にしがみついていた。
 小さな肩を震わせて……。

「おっさんさ、嘘つかなくてもいいんだぜ!」
「ウソ? なんのことだ?」
「こんなオレじゃ、ダメなんだろ! 嫌なんだ! どうせ元カノの方が良いとか思ってたんだろ!」
「え……?」

 すごい誤解を招いたようだ。

  ※

「もういいよ! そんなに言うなら、オレから先に出るっ!」

 涙目でそう叫ぶ、航太。
 俺が先に出たいと言っているのに、なぜこうなるんだ?

「ちょっと待て、航太。嫌とかじゃなくてだな……」
「うるさい! 嫌なら最初から言えよ、バカっ!」

 俺の言うことに耳を貸そうとはせず、浴槽から飛び出る。
 そして両手で力いっぱい、俺の胸を押して突き飛ばす。
 いきなりの出来事に、俺も態勢を崩し、壁にもたれかかる。

「こ、航太……」
「もう、おっさんのためにコスプレとかしてやんない! 元カノとすれば!」

 と啖呵をきった航太だったが……彼も動揺していたようで。
 足元に石けんが転がっていることに気がついてない。
 危ないと、俺が彼の手を掴もうとしたが、既に遅かった。

 次の瞬間、航太の足は石けんを踏んづけてしまい、後ろから床に倒れ込む。
 そのまま倒れたら、頭を強く打ってしまうだろう。
 俺は彼を助けようと、咄嗟に両手を差し出す。

 予想では、航太の脇を掴む……つもりだったが。
 彼の身体が細いせいか、思ったより手が前に回ってしまう。
 気がつけば後ろから、航太の薄い胸板を両手で抱きしめていた。

「わ、悪い……転びそうだったから」
「……べ、別にいいけど」

 彼の顔をちゃんと確認できないが、きっと頬を赤くしているのだろう。
 お風呂に入っていたのだから、普通のことだが彼の体温が暖かく感じる。いつもよりずっと。
 そして微かに心臓の音が、聞こえてきた……気がする。

 だが、それは俺も同様だ。
 今もバクバクとうるさいから、彼に伝わっていないか心配だ。
 
 どれだけ、時が経ったのだろう。
 航太を抱きしめてから、しばらく固まっている。
 別にいやらしい気持ちがあるからとかじゃなくて……離れるきっかけがないから。


「本当にごめんな、そういうつもりは無かったんだけど……」

 と言いつつも、未だに俺の手は航太の胸を掴んでいる。
 だがそんな俺を見ても、彼に嫌がる素振りはない。
 黙って俯いている。

「いいって……転ばないように、オレを支えてくれたんでしょ?」
「そ、そうだ」
「じゃあ……いいよ」

 その言葉を聞いて、俺はようやく彼から手を離す。
 傷つけた……航太に嫌われたんじゃないのかって、不安だった。

「おっさん、先に上がっててよ。オレ、ちょっと湯冷めしたみたい」
 
 そうは言うが、先ほどまでこの手に伝わっていた、彼の体温は火傷しそうなぐらい熱かった。
 顔を隠しているから、わからないが。ひょっとして恥ずかしいのか?

「わかった……先に上がっているよ」
「ありがと」

 浴室の扉を開き、洗濯機の上に置いてあったタオルを手にする。
 ふと振り返ると水着姿の航太が俯いたまま、立ち尽くしていた。
 先ほどまでお風呂に入っていたから、濡れたスクール水着が輝いて見える。
 特にヒップラインが……。

 しかし、そんなことよりも、航太の仕草が気になって仕方ない。
 自身の胸に両手を当てている。ちょうど心臓あたりか……。
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