おじさんとショタと、たまに女装

子供扱いすんな!


「……オレ、友達いないもん」

 そう呟いた彼の顔が忘れられない。
 近所のコンビニまでやってきたというのに……。
 かれこれ数十分も、酒売り場の前で立ち止まっている。
 
 一番安い焼酎とウイスキー瓶を手に取り、あとはつまみになるものを探すはずが。
 あの少年……航太くんのことで頭がいっぱいになり、思考がストップしている。
 選ぶ必要がないのに、芋と麦の焼酎を指が左右へ行ったきたり。

 12月の始めとはいえ、今夜は冷える。
 トレーナーワンピースだけじゃ、風邪を引いてしまうかもしれない。
 と他人の子供に、要らぬ心配をしている。

 俺だって金欠しているのに。
 何が出来るんだ?

 とりあえず、頭から雑念を追い払うため、頭を強く左右に振る。
 俺が飲むのは芋焼酎。それにハイボール用のウイスキーだ。
 迷うことなく、カゴに酒を投げ込むと、お次はつまみだ。
 もつ焼きにおでん、あとは……カウンターで会計をと思った矢先。
 あるものに目が行く。

「あれは……」

  ※

 コンビニからアパートへ戻る。
 自宅である二階建てのボロアパートからコンビニまでは、歩いて2分もしない距離だ。
 正直、コンビニで購入するのは高いが、近い場所にスーパーがないからどうしても、こちらを選んでしまう。
 
 アパートの階段をのぼっていると、小麦色に焼けた細い脚が見えてきた。
 丈の短いワンピースを着ているから、ドキッとしてしまう。
 まあ中にショートパンツでも履いているのだろうが……。

 二階へ上がると、廊下で航太くんと目が合う。

「あ、おっさん……」
「やあ、まだいたんだね」
「別にいいじゃん。このアパートの住人なら」
「そうだけど……ずっと外にいて寒くないの?」

 俺の問いにしばらく黙り込む、航太くん。

「母ちゃんが今、家にいるから……」
「え? 綾さんが? なら一緒に入ればいいじゃないか?」
「そうじゃないって……。母ちゃん、店で仲良くなったお客さんと、部屋で飲んでるんだ」
「ああ……」

 そう言えば母親の綾さんは、お水系の仕事だったか。
 悪いことを聞いたな。

「そっか。じゃあ家にいたくないんだね?」
 
 俺の問いに彼は、コクッと頷いてみせる。
 
 事情を知ったことで、尚のこと彼が心配になってきた。
 いや、俺自身が彼へ何かをしてあげたい。
 どんな小さなことでも……。

 コンビニのビニール袋から、一つの包装紙を取り出す。
 レジカウンターの前で見つけた、肉まんだ。
 酒飲みの俺からしたら、炭水化物はつまみにしないのだが。
 航太くんのことを考えて、買ってしまった。
 このホカホカの肉まんを食べたら、身体が暖まるだろう……。

「ねぇ、この肉まん。良かったら食べない? おじさん、アプリで当たったんだけど。これ食べられなくて」

 全部、ウソだが。
 すると航太くんは肉まんを見て、目を丸くする。

「え、いいの!?」
「ああ……良かったら」
「うん、ありがと」
 
 気まずそうに俺の手から、肉まんを受け取る航太くん。
 こんな姿を見ると、やはりまだ子供だな。

「おっさんは食べないの?」
「さっきも言ったけど、苦手でね……はは」
「そっか……食べられたら、半分こ。できたのにね」

 断るのが遅かったようで、航太くんは既に肉まんを二つに割っていた。
 こちらにまで、美味そうな香りが届いてくる。

「気にしないで。食べてよ、俺は苦手だからさ」
 
 そう言いながらも、香りをかいだせいで腹が鳴っている。
 
「うん……」

 俺の顔と肉まんを交互に見つめる航太くん。
 思ったより、素直で良い子だな。

「本当に俺は大丈夫だから、早く酒を飲みたいし。そろそろ家に帰るね」
 
 そう言って背を向けると、航太くんが大きな声を出して、呼び止める。
 
「ねぇ、おっさん!」
「は?」

 振り返ると、頬を赤くした彼がこう呟いた。

「めてよ……やめて」
「なにが?」
「オレのこと、くんづけとか。子供扱いすんのをさ」

 それを聞いて、俺はなんだか嬉しくなった。
 要は思春期だから、背伸びをしたい年頃なのだろう。
 
「わかったよ、航太。これでいいのか?」
 
 すると彼は見たことないぐらい、優しい顔で微笑む。
 
「うん、おっさん!」

 というか俺の名前は、ずっとおっさんのままか……。
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