おじさんとショタと、たまに女装
学生時代
大学に入学して2年経ったころ。
先輩から参加しているサークルの歓迎会に呼ばれた。
あんまり人付き合いも上手い方じゃなかったし、新入生とはいえ、初対面の人間と話すのは好きじゃない。
でも断れば、先輩の顔に泥を塗ることになる。
だから、仕方なくキャンパスの近くにある居酒屋へと向かった。
今年、入った新入生はわずか3名。
しかも全員、男。
野郎ばかりで飲む酒なんて、どうやっても盛り上がらない。
何人かの先輩たちが、無理やりテンションを上げようとしていたけど。
遠い地元から引っ越してきた若者たちから、爆笑を取れるわけもなく。
引きつった笑顔で、酒を飲んでいた。
俺は黙ってひとり酒を楽しむ。
どうせ無料で飲める酒なんだから、飲みまくってやろう。
昨年の文化祭で俺たちのサークルは、たこ焼きを出店していた。
けっこう売れてたみたいだから、その時の売り上げで今夜は好き放題できる……。
と思ったところで、グラスが空になっていることに気がつく。
おかわりが欲しくなり、すぐに店員を呼ぼうとするが、見当たらない。
この店は店主である、おばちゃんのワンオペだから、注文するのが面倒で有名だ。
「あのぉ~ 焼酎のお湯割りをお願いしたいんすけど?」
「……」
ダメだ。
どうせトイレにも行きたかったし、そのついでに調理しているおばちゃんに声をかけよう。
そう思い、先輩に声をかけてから席を立つ。
狭い廊下の奥へと進んでいくと、何やら声が聞こえてくる。
『うおえぇぇ!』
「今泉さん、気持ち悪いんでしょ。俺が家まで送っていくから」
『だ、大丈夫……です。ひとりで帰れ、うっぷ!』
トイレの前で来ると、ようやく状況が理解できた。
この季節……春になれば、よく見る光景。
各サークルで行われる未成年への飲酒強要。
そして、酔いつぶれた女子を介抱するという名目で……お持ち帰り。
「今泉さん! 俺、車あるから、送るよ!」
女子トイレを何度もノックする、先輩らしき男性。
そして中で嘔吐を繰り返す、若い女性。
『わ、悪いので……良いです』
見ていて、何とも胸くそ悪い光景だ。
中に入っている子が、どんな子か知らないけど。
ここで黙って見過ごすのも、先輩としてどうかと思う。
仕方ないので助け船を出してやることにした。
「あの、ちょっといいすか?」
トイレのドアを何度も叩く、男の肩を強めに掴む。
すると男は興奮した様子でこちらへ振り返る。
せっかくのチャンスを邪魔されたと、俺を睨みつける。
「んだよっ! 今、忙しいって!」
相当、溜まってんなこりゃ……。
「すみません。実はその中で吐いてる子……地元の知り合いなんすよ」
「え?」
「その子の親から面倒みろってうるさくて。ちょっとした有名人なんですよね、親父さんが」
田舎の権力者という設定で、嘘をついてみたが。
結構、効果はあるようだ。
先ほどまで強引にお持ち帰ろうとしていた男の顔が、一気に青ざめる。
「ま、マジ?」
「はい、うちの両親なんて未だに頭が上がらないほどで……」
「そうなんだ……悪い、この子のこと。お願いしていいかな?」
「ええ。もちろんですよ」
と知らない女の子を助けたところまでは良いが……。
このあと、どうしたらいいのかな?
俺もまだ酒を飲みたいのに、彼女ずっと吐きっぱなしで出て来ない。
~1時間後~
結局、あれから俺がサークルの飲み会に戻らないからと。
会計を済ませた先輩たちが俺を見つけて、「先に帰るからな」と酔いつぶれた後輩たちを連れて店を出た。
参ったな……とひとりトイレの前で、頭を抱えていると。
ようやく女子トイレの扉が開く。
中か出てきたのは、真面目そうな女の子。
口元をハンカチで押さえて、顔面真っ青……こりゃまだ吐きそうだな。
しかし、先ほどの最低な先輩もよくこんな女の子を誘ったな。
すごく地味で、田舎から出てきましたって感じ。
垢ぬけない芋っぽい子……。
それが第一印象だった。
「あの……すみません。助けてもらったみたいで」
「いいよ。俺んところの歓迎会も終わったみたいだし。君はひとりで帰れそう?」
「はい、大丈夫……うぷっ」
こりゃダメだ。
下手したら店の中で、ぶちまけるぞ。
それは店長のおばちゃんに悪い。
とりあえず、外へ出して近くのコンビニで吐かせるか。
「うおえぇぇ! ご、ごめんなさい……初対面なのに、家までお借りして。うぷっ!」
「良いから、話すより出しちゃいなよ」
結局、コンビニよりも近い、我が家であるアパートへ連れて来た。
成り行きとはいえ、俺がお持ち帰りしてしまった。
初めて家に入れた女の子だけど、まさかトイレの中で吐かせることになるとは。