おじさんとショタと、たまに女装

パーティータイム


 ちょっとしたハプニングもあったが、どうにか準備は完了した。
 いつも使っている、ちゃぶ台の上にはオードブルとローストチキンを置いて。
 俺と航太はクラッカーを手に持ち、お互いの顔を見て頷く。

「「せーのっ! メリークリスマス!」」

 パン! という破裂音と共に、色とりどりのテープが部屋の畳に散らばる。
 あとで掃除するのが面倒だが……航太の横顔を見れば、どうでも良いか。

「うわぁ……すごい。オレ、こういうの久しぶりに見たかもしれない」

 と大きなブラウンの瞳を輝かせる。
 
「そうなのか? 綾さんとは祝ったりしないのか?」
「うん、ないよ」
「でも……クリスマスが無くても、誕生日とか祝うだろ?」
「え? ばーちゃんが死んでからは無いかな?」
「……」

 俺が思ってた以上に興味がないんだな、綾さんは。
 実の息子なのに……。
 あまりにかわいそうだったので、俺は航太の頭を撫でながら、こう言った。

「じゃあ、今日はとことん俺の家で遊んでいけ! なんなら、航太の誕生日も今度パーティーしよう!」

 すると彼は大きな瞳を丸くする。

「本当!? じゃ、じゃあ今夜は泊まってもいいかな? 母ちゃん、家にいないんだ」
「綾さんに許可を取れたら、全然いいぞ」
「やったぁ!」

 ~30分後~

 航太が温め直してくれた、ローストチキンを二人して仲良く食べる。
 福岡のローカルテレビ番組を観ながら、クリスマス気分を味わう。
 博多(はかた)天神(てんじん)のイルミネーションを中継しているからだ。

「おっさん、こういうところ。行ったことある?」
「ん? ああ……最近は行ってないな。昔、学生時代ならあるけど」

 学生時代という言葉で、ローストチキンを持つ航太の右手がピクッと震えた。
 また元カノの未来(みくる)を、想像したのだろう。
 しかし、あいつはもう東京だ。

「そ、そっか……いいな。オレ、行ったことないから」

 と寂しそうな顔をして、テレビの中の夜景を眺める。
 ひとりだけ、仲間外れをされた子供のようだ。

「じゃあ、来年行くか?」
「え?」
「俺でいいなら、連れて行ってもいいぞ」
「ほ、本当に? でも……来年、オレと母ちゃん。まだこのアパートにいられるかな?」
「あぁ……」

 そう言えば、忘れていたな。
 航太たちがここ、”藤の丸(ふじのまる)”に引っ越してきた理由を。
 母親の綾さんの男癖が悪いから、トラブルが多くて、何度も引っ越していたんだっけ。

 
「ま、まあ、航太が引っ越したとしても、俺が迎えにいくさ」

 彼を元気づけるために、気休めの嘘でもついておく。

「おっさんが? でも、母ちゃんてさ。今までに一年間で3回以上、引っ越したことあるんだぜ?」
「関係ないさ、必ず俺が迎えにいくよ。どうせ引っ越すと言っても福岡市内だろ?」
「う、うん!」
「じゃあ、大丈夫さ」

  ※

 ローストチキンとオードブルを平らげたところで、冷蔵庫で冷やしておいたケーキとシャンメリーをちゃぶ台の上に置く。
 俺は包丁なんて扱えないから、ケーキのカットは航太に任せる。
 その間、グラスにシャンメリーを注いで待つことにした。

「はい、おっさんの分」
「悪いな」
 
 航太からカットしたケーキを受け取ると、俺も彼にグラスを渡す。

「なにこれ?」
「あ、それはな。妹の(あおい)が実家から持って来たシャンメリーだ」
「お酒じゃないの?」
「大丈夫だ。子供でも飲めるジュースみたいなもんさ、炭酸は入ってるけどな」

 俺がそう説明すると、航太は嬉しそうにグラスを受け取る。

「ヘヘ、じゃあ。オレでもシャンパンぽく飲めるね」
「まあな……でも、飲み過ぎたらトイレが近くなるぞ?」
「いいじゃん! そんなの!」

 顔を真っ赤にして怒っているが、どこか嬉しそうだ。
 俺はそんな彼を見て、苦笑しながらグラスを掲げる。

「乾杯するか?」
「うん!」
 
 航太もグラスを掲げると、互いのグラスを打ち付けて、音を鳴らす。

 何も考えず、口元にグラスを運ぼうとしたその瞬間だった。
 中に入っている液体から、独特な香りに気がつく。
 この香り……アルコールじゃないか?

 ちゃぶ台の上に置いてある、シャンメリーの瓶を手に持ち、ラベルを確認する。

『スパークリングワイン アルコール12%』

 それに気がついた俺は、思わず大量の唾を吹き出してしまう。

「ぶふーーーっ!」

 葵のやつ。間違えて実家から、親父のシャンパンを持って来たな。

 恐る恐る航太の方へ視線を向けると……。

「あははは! おっさん、汚いよっ!」

 顔を真っ赤にして、大笑いしている。
 ヤバい……未成年にお酒を飲ませちゃったよ。
 母親の綾さんに、なんて言おう?

 あ、でも、今晩は家に泊るんだったな。
 一晩あれば、お酒は抜けるだろう。
 ここは様子見でいいかな?

「おっさんも、一緒に飲もうよ! まだまだこのジュースあるんだからさ、ひっく!」

 気がつくとボトルの半分以上を飲み干していた。
 これはもう、完全に出来上がっているな。
 酒癖の悪さは母親似か。

「あぁ~ なんかこの部屋って暑くない?」
「え?」
「もう、脱いじゃう!」
「なっ!?」

 今晩、この家に彼を泊めても大丈夫だろうか?
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