悪役公爵の養女になったけど、可哀想なパパの闇墜ちを回避して幸せになってみせる! ~原作で断罪されなかった真の悪役は絶対にゆるさない!
4、伯爵様は童女だと?

 『ロザリットがパーティに出席する』とパパが返事を出すと、王室からは「令嬢は賊に襲われたと聞いたが、本当に参加できるのか?」と確認の使者が来た。ここは、原作通りだ。
 
 というのも、ロザリットが攫われたことや賊の馬車が崖から落ちたことは世の中に知られていて、「隠しているけどそろそろ諦めて訃報が発表されるだろう」と予想されていたんだ。
 なので、「ロザリットがパーティに出ます」と言われて、みんなが「なんだって~~?」とびっくりしているわけ。
 
「これはこれは。ご無事でなによりです、ロザリット公爵令嬢……」
 
 確認の使者は、アークデス・ブリッジボート伯爵という。
 パパと同年代の貴族だ。横幅がでっぷりとした外見をしている。

 原作ではこのイベントの時、公爵家は「拾ってきた孤児、全然ダメ!」とギスギスしていた。
 
 でも、公爵家に来てから今までの間でロザリットらしい言動に努めてきた私は、この時点で使用人やパパからは「ロザリット公爵令嬢」として認められている。
 
「ブリッジボート伯爵様にご挨拶申しあげます」
  
 私はたっぷりと練習したカーテシーを披露した。
 カーテシーは、上流階級の娘が自分の同格以上の相手にする伝統的な礼で、令嬢教育のレベルが一目でわかってしまう。

 フリルがいっぱいのドレスの裾をつまみあげ、片足を後ろに引き、姿勢が悪くならないように気を付けながら膝を曲げて――表情は、敬愛の気持ちをこめた上品なスマイル!

「ロザリットでございます。お会いできて光栄でしゅ」
 
 ――噛んだ!
   
 でも、カーテシーはきれいにできたと思う!

「うちのロザリットはなんて可愛いんでしゅか」

 パパは感動した様子で「ブリッジボート伯爵にはもったいないでしゅ」と言っている。
 
 あまりでしゅでしゅ言わないでほしい、恥ずかしい。私は幼児ではありません!
 
 でも、パパがデレデレしてるのを見てブリッジボート伯爵が「なんだ、この二人……公爵どうしちゃったんだ……」みたいに困惑してる。パパグッジョブ! 

「うぉっほん。父娘そろってご健勝でなにより。差し入れに『心を落ち着かせる効果の薬』をお持ちしました」

 さてこの伯爵、原作の設定では、自分が強い権力を握るために策略を巡らせていた人物だったりする。パパにも、こっそりと「判断力を鈍らせる薬」を差し入れたりしてたんだ。
 
 原作では「陥れられた側」のスローテス・ファストレイヴン公爵とその娘が悪役になり、「陥れた側」のブリッジボート伯爵が作中で罪に問われたりしなかったので、「ブリッジボート伯爵の方が悪役だろうがーー!」とSNSでは炎上していたんだ。
 
 ……思い出すと腹が立つ。
 この怒り、ちょっとだけ今、晴らしちゃだめだろうか。

「パパ、私、伯爵様に練習してきたダンスをご披露したいです」
 
 足いっぱい踏んであげる!
 
「ロザリットのかわゆさをたっぷりと語ってやろう。ブリッジボート伯爵、今夜は泊っていってくれ! でしゅ語を教えてやってもいい!」
「はっ? いや、結構。お前たちとなれ合うつもりはない」
「伯爵様、こちらへどーぞ」
「伯爵、うちの子がどーじょって言ってるんだからどーじょだ」
 
 パパ、私はどーじょとは言ってませんよ!?
 
「伯爵様は童女だと?」
 ……本人には謎解釈されてる! 
 
 それにしても、原作ではパパはもっと渋くて影があるキャラだったんだけど、今じゃすっかりハイテンションの面白おかしいイケおじ様だ。そんなパパが私は好きだけど!
 
 ブリッジボート伯爵は一晩泊まり、意味深な台詞を置いて帰って行った。
 
「パーティでは、公爵のために特別な催しをするつもりです。陛下にもご許可をいただきましたので、お楽しみに」

 パーティは二か月後。
 ブリッジボート伯爵はそのイベントで策略を仕掛けてくるみたいだけど、こっちだって負けなーい!

「パパ、差し入れでもらったお薬、飲んじゃだめ」
「ははっ、パパは心が満たされているから、お薬はいらないよ」
「パパ、このお薬、成分を調べてほしいの」

 ――このお薬は、証拠品として使えるんじゃないかな? 
 私はそう思って証拠をしっかり確保した。
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