【4/22コミカライズ単話版発売】猫になって王太子を護衛するはずが、なぜか愛をささやかれています!
4、私は今なにを聞かされているの?
猫の頭から背中へと、ウィリアム殿下の手が撫でていく。
気持ちいい。優しい手付きだ。
「アシュリー嬢はとても綺麗なホワイトブロンドでね。瞳は清らかなアクアマリンのようで。宝石をみせてあげようか? メイメイの瞳とも似ている色だね」
殿下は上機嫌だった。
「アクアマリンをメイメイの首輪にしたらどうだろう。首輪は嫌かい?」
ベッドで猫の私を抱っこして機嫌よく語るのは、『アシュリー』の話だ。
「魔法の才能がすごいんだ。私を守ってくれたことがあるんだよ。華奢なのにすごく頼もしいのだ。手首はこんなに細い。でも、強くて美しい! 彼女を見た時、まるで時間が止まったように思えたものだ。あの時の彼女の姿は、私の心に永遠に刻まれているよ」
ウィリアム殿下は、「はーっ」とため息をつきながらしゃべり続ける。
「私はね、たくさんの人が集まっている中でも、彼女がどこにいるかが一瞬でわかるんだ。彼女の周りだけ、世界が彩りを増して華やかになってるように感じられるんだ。不思議だね。目が離せなくなって、見ないようにしてもつい見てしまって、視線で追いかけてしまう……はぁ……」
「うにゃ」
猫耳がクニッと引っ張られる。おやめください、殿下。
「好きなんだな。婚約者がいるのにいけないって思って、今までは我慢していたんだけど……」
猫の頬がふにふにと突かれる。爪立てますよ、殿下?
というか、すごいことを聞いてしまっている気がするのですが、殿下?
す、好き? 好きには色々な種類がありますね? どの「好き」でしょうか、殿下?
そのお話の仕方だと、まるで異性に対する恋愛的な「好き」のように聞こえますね、殿下?
「彼女、婚約者と破局したんだ。不幸な話なのに、私はそれを聞いたとき喜んでしまってさ。彼女が悲しんでると思ったら、胸が締め付けられるような気持ちがするのに、なのに……私ときたら、嬉しくなっちゃってる部分もあってさ」
ぎゅうっと抱きしめられる。熱情を孕んだ声に、私の心臓が踊り狂ってしまう。
待って。
これ、私が聞いていてよいものなの?
聞いちゃだめなのでは?
殿下は、話し相手の猫が私だと知らないで話している。
本心を。
誰にも話せなかった秘密の恋心を。
「喜んでいたら、彼女、いなくなってしまってさ。……心配してたんだ」
語りかける秀麗な顔は、切なそうだった。
「でもね、ご実家に戻られて、王都で買い物をなさっているって聞いたんだ。見に行ったらお元気そうだった。それでつい、声をかけてしまったんだ」
「私はどう思われただろう。気持ち悪いって思われただろうか。あんまりスマートに振る舞えなかったな」
「緊張して、浮かれてて。ああ、やらかした……っ彼女、男性嫌いになったんだって噂があってさ……」
「……にゃあ」
ああ、距離が近い。
近すぎる――
殿下は猫の私を話し相手にして、独り言のように想いをつぶやき続けた。
そして、いつもより大分遅く、明け方近くまでなってからようやく眠りに就かれた。
(殿下。気持ち悪いなんて、思いませんでしたよ)
健やかに眠る端正な顔を見つめながら、私は人の姿へと戻った。
指先が自然と殿下の髪を撫でようとして、そんな自分に気付いて困惑が胸に湧く。
――私は、今なにをしようとしたの。
ただの護衛なのに。
貴き殿下に対して、無防備に眠っておられるこの方に対して、無断で触れようとするなんて。
(護衛の任務は、もう終わりにしよう。これは、よくないわ)
殿下が私を好き……という、とんでもないお話も聞いてしまったことだし。
聞いてしまった数々の言葉の甘さに酔ってしまいそうになりながら、私は片手を振った。
「ぎゃっ!」
「どちらにしても、今夜で終わりなのは間違いないようですね」
視線を向けた先には、魔法の鎖で拘束される黒づくめの男がいる。
――暗殺者だ。
気持ちいい。優しい手付きだ。
「アシュリー嬢はとても綺麗なホワイトブロンドでね。瞳は清らかなアクアマリンのようで。宝石をみせてあげようか? メイメイの瞳とも似ている色だね」
殿下は上機嫌だった。
「アクアマリンをメイメイの首輪にしたらどうだろう。首輪は嫌かい?」
ベッドで猫の私を抱っこして機嫌よく語るのは、『アシュリー』の話だ。
「魔法の才能がすごいんだ。私を守ってくれたことがあるんだよ。華奢なのにすごく頼もしいのだ。手首はこんなに細い。でも、強くて美しい! 彼女を見た時、まるで時間が止まったように思えたものだ。あの時の彼女の姿は、私の心に永遠に刻まれているよ」
ウィリアム殿下は、「はーっ」とため息をつきながらしゃべり続ける。
「私はね、たくさんの人が集まっている中でも、彼女がどこにいるかが一瞬でわかるんだ。彼女の周りだけ、世界が彩りを増して華やかになってるように感じられるんだ。不思議だね。目が離せなくなって、見ないようにしてもつい見てしまって、視線で追いかけてしまう……はぁ……」
「うにゃ」
猫耳がクニッと引っ張られる。おやめください、殿下。
「好きなんだな。婚約者がいるのにいけないって思って、今までは我慢していたんだけど……」
猫の頬がふにふにと突かれる。爪立てますよ、殿下?
というか、すごいことを聞いてしまっている気がするのですが、殿下?
す、好き? 好きには色々な種類がありますね? どの「好き」でしょうか、殿下?
そのお話の仕方だと、まるで異性に対する恋愛的な「好き」のように聞こえますね、殿下?
「彼女、婚約者と破局したんだ。不幸な話なのに、私はそれを聞いたとき喜んでしまってさ。彼女が悲しんでると思ったら、胸が締め付けられるような気持ちがするのに、なのに……私ときたら、嬉しくなっちゃってる部分もあってさ」
ぎゅうっと抱きしめられる。熱情を孕んだ声に、私の心臓が踊り狂ってしまう。
待って。
これ、私が聞いていてよいものなの?
聞いちゃだめなのでは?
殿下は、話し相手の猫が私だと知らないで話している。
本心を。
誰にも話せなかった秘密の恋心を。
「喜んでいたら、彼女、いなくなってしまってさ。……心配してたんだ」
語りかける秀麗な顔は、切なそうだった。
「でもね、ご実家に戻られて、王都で買い物をなさっているって聞いたんだ。見に行ったらお元気そうだった。それでつい、声をかけてしまったんだ」
「私はどう思われただろう。気持ち悪いって思われただろうか。あんまりスマートに振る舞えなかったな」
「緊張して、浮かれてて。ああ、やらかした……っ彼女、男性嫌いになったんだって噂があってさ……」
「……にゃあ」
ああ、距離が近い。
近すぎる――
殿下は猫の私を話し相手にして、独り言のように想いをつぶやき続けた。
そして、いつもより大分遅く、明け方近くまでなってからようやく眠りに就かれた。
(殿下。気持ち悪いなんて、思いませんでしたよ)
健やかに眠る端正な顔を見つめながら、私は人の姿へと戻った。
指先が自然と殿下の髪を撫でようとして、そんな自分に気付いて困惑が胸に湧く。
――私は、今なにをしようとしたの。
ただの護衛なのに。
貴き殿下に対して、無防備に眠っておられるこの方に対して、無断で触れようとするなんて。
(護衛の任務は、もう終わりにしよう。これは、よくないわ)
殿下が私を好き……という、とんでもないお話も聞いてしまったことだし。
聞いてしまった数々の言葉の甘さに酔ってしまいそうになりながら、私は片手を振った。
「ぎゃっ!」
「どちらにしても、今夜で終わりなのは間違いないようですね」
視線を向けた先には、魔法の鎖で拘束される黒づくめの男がいる。
――暗殺者だ。