たとえば、こんな人生も②
私が口にした言葉を
飲み込むのに時間がかかったようで
少しの間、ふたりは沈黙した

しんとした空気が、しばらく流れた後

はっと、思い出したように
千夏ちゃんが口を開く


「………一年生の時、別クラスで
いつも、どこかしら怪我してる子がいるって噂になってたのって……もしかして……」


噂の渦中の、その子が誰かは
ふたりは知らなかったみたいだけど

それは、莉央ちゃんにとっても
聞き覚えのある内容だったようで

千夏ちゃんの、その言葉に
莉央ちゃんの表情が青ざめていく


苦笑いを返せば
莉央ちゃんは、血の気のない表情のまま
こわごわとした口調で私に問いかけた


「……い、今は大丈夫なの?」

「うん」

「…解決したの?
ひなたは辛くなったりしてない?」


千夏ちゃんも
険しい表情を浮かべて、私の顔色を窺う


「ちゃんと解決したし、大丈夫だよ
ありがとう」


安心させるように笑って答えれば
ふたりの強張っていた表情が
ほんの少しやわらぐ

けど、どこか気まずい空気はそのまま

莉央ちゃんが
うつむきがちに言葉をこぼす


「………ごめんね。私、こういう時
どんな顔すれば、どんな言葉をかけたらいいか、全然分からなくて…」

「ううん。ふたりともありがとう
でも、本当に今は大丈夫なの」


返す言葉に悩んだのは
そういう過去を話すことに抵抗があったからじゃなくて

それを聞いたふたりが
気に病むんじゃないかって思ったから


私自身は本当に平気だから

あった出来事はなくならないし
受けた傷も痛みも、完全には消えなくても

もう、それは過去の事で、終わったこと


今はこうして、穏やかな日々を送れている


私を解ってくれる
ちゃんと知ろうとしてくれる
知りたいと思ってくれる

理解できなくても
寄り添ってくれようとする相手がいる


とても、恵まれている



「だから、ふたりには今までみたいに
普通に接してもらえたら嬉しい」



………



「……うん」

「分かった」


莉央ちゃんと千夏ちゃんは
一瞬、複雑そうに顔を見合わせたけど

私の気持ちを汲んでくれて

お互い、気持ちを切り替えるように頷いて
控えめではあるけど、笑い返してくれた
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