たとえば、こんな人生も②

「ただいま。くろ」

「にゃー」


帰りが早かろうと遅かろうと
くろは変わらず、ここで出迎えてくれる

健気なその子猫を抱き上げて
優しく撫でれば、嬉しそうに目を細め
ごろごろとのどを鳴らす

そんな姿に、自然と頬が緩む


くろを抱いたまま
ソファーに腰をおろすと
なんだか一気に脱力してしまって


「………ちょっと…疲れた…」


ため息混じりに
口からこぼれた言葉には
文字通り、疲労がにじんでいた

そのまま、力尽きたように
ぱたりとソファーに横になる




文化祭の準備は、想像以上に大変だった

試作品作りと平行して
やることがたくさん

備品の買い出し
チラシ作成、店内デザイン
装飾準備…等々


作業を分担しているとはいえ
最終的には大人数での共同作業になる

そういうことに
自分が慣れていないこともあって
帰宅する頃には、毎回へろへろになっていた



「みゃう」



耳元で、甘えるような鳴き声が響く

ソファーに突っ伏していた顔を上げ
そちらに視線を向ければ
まんまるきらきらの金色の瞳と
ぱちりと目が合う

あごの下を撫でてあげれば
再び、気持ち良さそうにのどを鳴らして
すりすりと私の顔に体を擦り寄せる


耳に心地いい、ごろごろ音と
ふわふわな毛並みの感触

全身の疲労感もあいまって、眠気を誘う



「………。」



抗いがたいそれに
気付けば、私は意識を手放していた