たとえば、こんな人生も②
――カタン



……?



家事を済ませ、お風呂に入り
リビングで少しゆっくりして

そろそろ寝ようと、くろを抱いて
部屋に戻ろうとした時

玄関の方から
物音が聞こえた気がした


不思議に思い
そちらに向かおうとしたら
廊下でちょうど、いつきさんと鉢合わせた


「ひなたちゃん」

「…いつきさん?
どうしたんですか?」


と、若干驚いて聞くのも
いつきさんは今日明日は
泊まりがけで仕事で
家に帰って来ない予定だったから

忘れ物でもしたのかなと思いながら
いつきさんを見上げる


「メール見て、心配になって」


その言葉に目を丸くする


よくよく、いつきさんを見れば
服や髪型が乱れてて
急いで来てくれたことが、うかがい知れた


「ひなたちゃんからも、シンさんからも
無事帰宅したって連絡貰ったけど
…顔、見ないと落ち着かなくて」


言いながら、私の頬を撫でて
それから
ようやく安堵したように息をついて
どこか強ばっていた表情を緩めるいつきさん


言葉通り、とても心配してくれていた事が伝わってきて、申し訳ない気持ちが湧いてくる


「……ごめんなさい。心配かけて」

「どうして?心配させてよ
大事な恋人なんだから」


しゅんとうなだれる私に
優しく笑いかけるいつきさん

その言葉や表情から
大事にされていることを再認識させられて

優しい言葉が、胸ににじんで

申し訳なさや不安から
少し冷たくなっていた心に
あたたかさが広がる


「…」


抱いていたくろを、一旦床におろして
私はそのまま、いつきさんに抱きついた


「…ありがとうございます」


いつきさんは
一瞬びっくりしたみたいだったけど
すぐに私の背中に手を回して
「何事もなくて良かった」と呟いた
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