たとえば、こんな人生も②
「ひなたちゃん、ごはん食べた?」

「…食べてないです」

「俺もまだなんだ。何か食べる?」

「……じゃあ、オムライス」

「さゆさんのじゃないけど、いい?」


前に話した会話を覚えていたようで
いつきさんは笑いながら言う

こくりと頷けば
いつきさんは、「待ってて」っと
キッチンに向かった



訓練の成果なのか
それとも、いつきさんだからなのか

そわそわしてしまうけど
1対1でも、恐怖心は湧いてこない

いつきさんは気にして
少し距離を取ってくれているけど
多分、近付かれても大丈夫だと思った



リビングの椅子に座って
手慣れた様子で調理を始めるいつきさんの
後ろ姿を眺めて

少し、気持ちがやわらぐ


……久しぶり


あったかい飲み物を飲んだ直後
ほっと息をついて
力が抜けて、リラックスするような

そんな感覚



「…」



私は料理が出来上がるまで
ずっと、ぼんやりと、その姿を眺めていた
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