たとえば、こんな人生も②
「……き、傷付けて
ごめんなさい…」


しゃくりあげながら
あの日の事を謝れば

きょとんと目を瞬かせた後
いつきさんは、「…馬鹿だなぁ」と苦笑して
優しい声音のまま、否定した


「傷付いたのは、ひなただよ
俺じゃない」


ぶんぶんと、首を横に振る


「……怖がって、怯えて…
逃げて……ごめんなさい…」


言葉を絞り出す度に、感情があふれて
涙が止まらなくなる

そんな私を見て
いつきさんは、また、困ったように微笑む



「…例え、傷付いたとしても
怖がっても、怯えても、逃げても構わないよ」



「大丈夫だよ
俺がひなたを好きなことは変わらない」



真剣な顔で、言葉を綴った後
また、ふわりと笑う



ずっとずっと抱えていた私の不安と恐怖を
打ち消すように



「きみが、笑って幸せでいてくれれば
俺は、本当に満足なんだよ」



有り余る程の愛情を、私に注ぐ



嘘じゃないよって

本当だよって


いつきさんは言葉と表情で訴える


告白してくれた時みたいに




「怖がってもいい」



さっきと同じ言葉を口にしながら
そっと、その手を私に伸ばす



「怯えてもいい」



不安も、恐怖も、焦りも
すべて、溶かすような



「逃げたっていい」



深い、深い慈愛と熱



「それでも、好きだよ」



頬に触れた手は優しくて

止まらない涙を何度も何度も拭ってくれる



「…っ」



そのまま、いつきさんの胸に飛び込んで
その大きな身体に抱きついた


恐怖も嫌悪感も、微塵も感じない


この人は絶対に私を傷付けない

今までも、これからも、絶対に


しっかりと、抱き止めてくれるこの人は

いつだって、私に優しい


触れる手付きも、向ける言葉も
壊れ物を扱う様に丁寧で、優しくて


いつだって
とめどなく、あふれる愛情を私に与えてくれる



幸せを、くれる
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