たとえば、こんな人生も②
「……………いつき、さ……」


小さく呼ばれた名前に、ぴくりと反応する

でも

どうやら寝言だったみたいで
彼女の瞳が開くことはなかった


「…」


求めるように俺を呼ぶものだから
ぐらりと感情が傾いてしまう


彼女の隣に横になって
その体を引き寄せる


腕の中に感じる温もり



大事にしてあげたい


苦しい過去を、辛い記憶を
背負った痛みや傷を、癒せるくらいに


自分が苦しくても、辛くても
いつだって、誰かのために

必死にもがいて、生きてきた


その生き方は不器用で

痛々しくて

危なっかしくて、目が離せなかった

だけど、同時に

純粋な、その心に惹かれた


複雑な心の有り様を
彼女を
知る度に好きだと感じた



彼女が俺を呼んだ日

『さみしい』と俺を呼んだ、あの日


はっきりと
抱いていたその好きが
特別なものだと自覚した
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