たとえば、こんな人生も②
「……あの」

「!」


そろそろと覗き込めば
予想通り、そこに人がいた
その場に縮こまって、体を震わせていた


「えっと…」

「……」


一瞬だけ、顔を上げたその子は
びっくりしたように目を開いて
すぐにうつ向いてしまったけど

目の縁いっぱいに溜まった涙をこぼさないように、必死に我慢してるような
そんな、痛々しい表情を目の当たりにして

察した





「……これ、食べていい?」

「………………え………?」


ごみ箱から拾い上げたお菓子を掲げて
訊ねれば、時間差でぽかんとした声が返ってきた


「私、チョコブラウニー好き」

「……………そ、れ……ごみ、箱に……汚な…」

「袋に入ってるから大丈夫」


あからさまに動揺するその子に、そう返して
返事も待たずに、袋を開けて
取り出したお菓子をぱくりと口にする



「…うん。美味しい」

「…」


制止する間もなく
ためらいなく、それを口にした私を
唖然と見つめるその子

私の突拍子のない行動に驚いて
さっきまで浮かんでいた涙も
すっかり引っ込んだ


「手作り?すごいね、本当に美味しいよ」


本当にお世辞でもなんでもなく
そのブラウニーは美味しくて
1個だけのつもりが、残りも全部ぺろりと食べてしまった


「ごちそうさまでした」


そう言って、笑いかければ
ぽかんとした顔が段々崩れて
また、じわりと瞳に涙が浮かぶ

でも、今度はそれを我慢せず溢しながら


「………あ、り……がとう……っ」


涙声でお礼を呟いて
その子はしばらく泣き続けた
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