たとえば、こんな人生も②
「藤(ふじ)さん」


翌日のお昼休み

お弁当を持って
中庭に移動しようと席を立った所
クラスメイトの女の子に呼び止められた


「私?」

「うん。ちょっといい?」


……なんだろ?


持ってたお弁当を机に置いて
その子に体を向ける


「いきなりごめんね
あのね、この子が藤さんに話があるって」


そう言って、自分の背後を振り返る

そのクラスメイトの後ろから
おずおずと顔を覗かせたのは
昨日、放課後に出会った、あの女の子だった


雰囲気から察するに
ふたりはどうやら友達同士みたい


「……」

「ほら、お礼。言いたかったんでしょ」


促されて、前に出たあの子は
緊張からか、顔を赤く染めながら
私に頭を下げた


「あ、あの…昨日は、本当にありがとう」

「私、なにもしてないよ」

「ううん。……嬉しかった」


わざわざお礼を言いに来てくれたことに
驚きつつも
本当にたいしたことはしてなかったから
頭を下げて感謝されることに戸惑う


「藤さん、私からもありがとう
この子から話聞いた」


「あれね
この子が一生懸命作ったものだったの」


「勇気振り絞って、渡したものだったの
だから、ありがとう」



『ごみ』にしないでくれて
ありがとう、とふたりは言う


「……お世辞とかじゃなくて
本当に美味しかったよ」


笑って返せば
あの子は照れくさそうに笑顔を浮かべる

それから、もじもじしながら、私に言った


「それで……その
よ、良かったら、一緒にお昼……どうかな…?」

「え?」

「藤さんが嫌じゃなかったら
この子も、私も、藤さんともっと話してみたい」

「…」



こんな風に誘われる事も最近増えた

でも

人の心の機微には疎くても
その意図は分からなくても

その言葉を言葉通りに受け取れなかったり
なんとなく苦手
なんとなく嫌だなって思うことが多かったから

断ってばかりだった


だけど


「…」


期待を滲ませながらも
決して無理強いはしてこない

そんなふたりに、今まで声をかけてきた人達とは違う何かを感じて


私は初めて
クラスメイトからのお誘いに頷いた
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