君にサヨナラを
そして、次の日。

「では、皆さん文化祭楽しんでくださいね。では、準備お願いします。」

先生のその一言で各々準備を始めた。

俺らのクラスはお好み焼き屋をやるらしい。

いいなぁ。俺も一緒に焼いたり売ったりしたかったな。

そんなことを思いながらじっと皆を見つめていた。

「翔〜凛ちゃん達のところって何するんだっけ?」

「ん?メイドカフェって絢音が言ってたけど。」

竜の問に翔は笑顔で答えた。

「てことは、凛ちゃんもメイド服きんの!?」

「そのはずだよ。絢音と客呼び担当って言ってた。」

「まじか!ちょ、俺、ツーショット撮ってもらいに行く!」

「こら!後でにしろ。準備を手伝ってよね。」

今にも凛のところへ駆け出しそうな竜を、

翔はため息混じりに止めていた。

凛がメイドか…。

可愛いんだろうな。

あーくっそ!

こんなんじゃなかったら絶てぇ写真撮ってたのに。

もう着替えたのだろうか。

少し見に行ってみるか。

俺は、ちらりと隣のクラスを覗いた。

あ、いた。

凛はピンク色で大きなリボンが付いたメイド服を着ていた。

似合ってる。

可愛いなぁ。

凛のクラスの男子はコソコソとあの2人超可愛くねぇ?

と話していた。

今すぐにでも凛は俺のだと見せつけてやりたかったが、

今の俺にはそんなこと出来ない。

それが悔しくて仕方なかった。

はぁ〜。

と、ため息を1つ零し俺は壁に持たれて座り込んだ。

「ゆーくん?何してるの?」

そうしていると不意に頭上から声がした。

「凛…。いや、凛がメイド服着るって聞いたからちょっと気になって。」

「え!?そ、そうなんだ!どう?似合う?」

ふふと凛は嬉しそうに見せてきた。

「あぁ。すげぇー似合ってる。超可愛いよ。」

「ありがとう!」

凛は照れくさそうに笑った。

かわいいなぁ。

堪らなく抱きしめたくなって手を伸ばした。

が、タイミング悪く雨乃がひょこりと顔を覗かせた。

「りーんー。そんなところで何してんの?サボってないで手伝ってよねー。」

「絢音ちゃん!ごめん!すぐ行く!
ほら、ゆーくんも戻ろ。みんな困っちゃうよ!
じゃ、また後でね!」

バイバイ!と笑顔で手を振り教室へ戻っていった。

はぁ。

別に俺が戻ったところでなんの意味もない。

クラスのやつが楽しんでいるのをじっと見ているだけだ。

当たり前だが困るやつなどいない。

だったら凛の隣にいたい。

あーぁ。戻るか。

俺はしぶしぶ教室へ戻った。

戻ると、みんな準備を終えていた。

あとは、プレートや材料を外へ持っていくだけだ。

俺は静かに竜と翔の後ろを歩いた。

「おいしょっと!プレートこの辺でいい?」

「線がとどくならそこでいいよ。」

「んじゃここで。」

「竜、それ終わったら生地作るの手伝って。」

「ほーい!あ、お前らは……。」

竜はほかのクラスメイトに的確に指示を出していった。

各々が配置につき作業を始めた。

「竜、材料いれて。」

「まかせろ!……ってこれ、どれくらい入れんの?これもいれる?」

「袋に書いてあるでしょ。」

「おぉ!あ、てか200とかどれくらい?分かんねぇ。」

「計量カップ使えばいける。はぁ。しっかりしほしいな。」

「しゃーねぇだろ!普段料理しねぇんだからよ!」

「じゃ、どうして調理を選んだんだ。」

「翔と一緒が良かったからだよ。」

やいやいと言い合いをしながら必死に生地を作る竜。

おいおい、大丈夫かよ。

お好み焼きちゃんと出来んだろうな?

「だぁーーー!!殻入ったし!」

あ、ダメかもしれない。

他の奴らは作業しながらクスクスと笑っている。

翔は完全に呆れていた。

「よっしゃ!出来た!」

「間に合わないかと思ったよ。」

翔はボールを受け取り、焼き担当の子に渡した。

ちょうどそのタイミングで門が開放された。

文化祭一日目スタートだ。

俺たちの高校は家族以外の人も参加可能だ。

知らない人でも参加してかまわないのだ。

「すいません、お好み焼き2つください。」

早速誰かが買いに来たようだ。

「あ!聞いたことある声だと思ったら、優馬の母ちゃん!ちわっす!」

は!?お袋なんで来てんだよ。

俺のお袋は文化祭は必ず来ていたが、今年は来ないと思っていた。

「あら、竜くんのクラスだったのね。翔くんもいるのかしら?」

「うっす!翔〜!優馬の母ちゃんだぞ!」

「こんにちは。」

「こんにちは。2人とも元気そうでなによりね。ふふ。
あなた、翔くんと竜くんよ。」

は?あなた?

そう言うと、後ろから親父が顔を出した。

ちょ、なんで親父来てんだよ!

去年まで来てなかったじゃねぇか!

「うぉ!?お久しぶりっす!」

「お久しぶりです。」

「はは、久しぶりだね。妻から聞いてるよ。優馬と仲良くしてくれていたんだってね。そして、今でも逢いに来てくれているだと。ありがとう。」

親父は深々と頭を下げた。

「いやいや、頭上げてください。優馬は俺らにとってずっと大事なダチなんで。」

「そうですよ。俺たちが優馬に会いたくて遊びたくて行ってるだけです。」

「あいつは、良い友達をもったな。あいつにもこの子達の言葉を聞かせてやりたかったな。」

ちゃんと聞いてるよ。

2人の後ろでしっかりとな。

お前らがダチでほんと良かったよ。

「あなた、この子達も忙しいでしょうからそろそろ行きましょう。」

「あぁ、そうだな。では、また。」

親父とお袋は頭を下げ行ってしまった。

「いやー優馬の母ちゃんはいつ見ても綺麗だよな。」

「そうだね。お父さんもかっこいいしね。」

2人は俺の親の話で盛り上がっていた。

はぁ。なんで2人とも来たんだか。

そんなことを考えながら俺は人の流れをじっと見ていた。

ん?あの人達って…。

見覚えのある人が2人こちらへ向かって歩いてくる。

「1つください。」

あ、やっぱり。凛の母ちゃんと父ちゃんだ。

凛の母ちゃんはちらりとこちらを見た。

「あ、翔くん!」

「え?あ、凛ちゃんのお母さん。こんにちは。」

「こんにちは。娘と仲良くしてくれてありがとね!」

「いえいえ、こちらこそです。今日はお父さんも一緒なんですね。」

「そうなのよ。娘が少し心配だか俺も行くって。」

「まぁ、あの様子だと心配になりますよね。」

「早く元に戻ってくれるといいんだけど。」

「大丈夫ですよ。きっと戻ります。まぁ、優馬は悲しむかもしれませんけど。」

「そうね。優馬くんにはもう、自由になって欲しいの。優馬くんには申し訳ないけどあの子には戻ってもらわなくちゃ。」

「優馬もそれは分かっていると思います。」

あぁ。翔の言う通り分かってる。

それに、多分。

多分だけど凛は何か思いだしつつあるのだと思う。

最近の凛の言葉も行動も違和感がありすぎる。

真剣な話をしていると竜がこちらにやってきた。

「翔、お前サボってねぇで手伝えよ…ってどちら様?翔の知り合い?」

「凛ちゃんのお母さんとお父さんだよ。」

「え!?!?凛ちゃんのお母様とお父様!?は、初めまして竜です!」

竜は慌ててお辞儀をした。

「まぁ、あなたが竜くんね。初めまして。ちょくちょく凛からお話は聞いてるわよ。」

「え!まじっすか!」

あからさまに嬉しそうな顔をする竜。

「娘のことを気にかけくれてるみたいでありがとうね。」

「あ、いや、その。なんかほっとけねぇんすよね。というか、その、俺、凛ちゃんのこと大好きなんすよ!恋愛的な意味で。だから、守ってやりたいんです!……ぁ、となんかすんません!ご両親にこんな…。」

あたふたしている竜に凛の母ちゃんは、ふふと微笑んだ。

そして、今まで黙っていた父ちゃんが口を開いた。

「竜くん。」

「は、はい!」

「ありがとう。こんなことになっていても凛を好きだと言ってくれて感謝するよ。あの子が元に戻ったら頑張って振り向かせるんだよ。そして、幸せにしてやってくれ。もし、ダメだったときは友達として仲良くしてやってくれ。」

「はい!もちろんです!」

「パパ、そろそろ娘のところへ行きましょうか。」

「そうだな。では、また。」

2人は会釈しその場を後にした。

「凛の母ちゃんと父ちゃんまじ綺麗。」

「そうだね。というか、良かったね。応援してもらえて。」

「おう!」

竜は照れ笑いを浮かべた。

「いやー頑張んねぇとな俺。絶対振り向かして幸せにする!」

「はいはい。分かったから生地作るよー。」

なんだか竜が羨ましかった。

もしかしたら凛と幸せになれるかもしれない。

そんな未来がある竜がとてつもなく羨ましい。

俺だって凛と幸せになりたかった。

そんな暗い気持ちで落ち込んでる俺をよそに、

お好み焼き屋は大繁盛。

次から次へと人がきて大忙しだった。

その様子をボーッと眺めている間に午前は終わった。

「よっしゃー!午前終わり!交代だ!」

さて、俺は凛の所へ行こう。

翔は雨乃の所へ行くだろう。

竜はどうすんだ?

「竜、午後はどうするの?」

「んあ?あー、弟来てっから一緒に回る。」

「そうか。楽しんでね。」

「翔もな!」

そして、俺たちはバラバラになった。
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