君にサヨナラを
-チュン、チュンチュン、チュン-

ピーンポーン!

「はーい!ゆーくん!いらっしゃい!上がって上がって!」

「お邪魔します。」

今日は約束通り凛の家に勉強会をしにやってきた。

ガチャ。

「どうぞ!好きなとこ座って待ってて!飲み物取ってくるから!」

「おう。」

久々に見た凛の部屋。

前に来た時と何も変わらず、整理整頓がちゃんとされた綺麗な部屋だ。

ちらりとベッドの方を見ると大きめのクマのぬいぐるみがあった。

確か、付き合ってまもない頃にゲーセン行ったときに俺が取ったやつだ。

まだ持ってたんだな。

机を見ると俺とのツーショットの写真が飾ってあった。

これ、テーマパーク行ったときのか。

ソフトクリームを頬張っていたら凛にいきなりツーショ撮られたんだよな。

お化け屋敷も入ったなぁ。

凛のやつ、本当は怖いの嫌いなくせに大丈夫とか強がって入っちゃってさ、

結局半泣き状態で出てきたんだっけ?

楽しかったなぁ。

凛ともう一度普通にデートしてーな。

そんなことを考えながら当たりをキョロキョロと見回しているとガチャっと扉が開き凛が戻ってきた。

「あんまりお部屋ジロジロ見ないでよ。恥ずかしいじゃん。」

「あ、悪ぃ。相変わらず綺麗だなって思って。」

「ありがとう。ほら、そんなことより勉強しよ!」

凛は照れながらノートなどを準備し始めた。

可愛いな。

離れたくないな。

「ねぇ、ゆーくん。提出課題終わったらさ、その後おやつ食べにお出かけしようよ!」

「いいよ。」

「やったー!」

「んじゃ、さっさと終わらそーぜ。」

うん!と嬉しそうに頷いた凛。

俺は、課題そっちのけで凛を見つめていた。

課題なんてやっても意味が無い。

というかやる必要が無い。

だから、凛を見つめた。

少しでも長く見ていたくて。

そして今日は、凛の母親はパートの仕事でいないらしい。

父親も仕事でいない。

なので、2人きりだ。

沢山俺と喋ってても怒られることは無い。

幸せな時間だった。

「うー。ゆーくん。数学のこの問題わかんない。」

はは…こいつ数学苦手だったな、そういや。

「どれ?見せてみ。」

「ここ!全然分かんない!」

「あー、これか。これは……。」

俺が説明しだすと凛はポカーンとした顔をしていた。

おいおい、大丈夫か?これ。

そう思ったが途中で理解できてきたのだろう。

おぉ!と目をキラキラさせ嬉しそうにしていた。

「……んでこうなんの。理解出来たか?」

「うん!やっぱりゆーくん教える上手いね!」

「そうか?ありがとな。」

あーぁ。この幸せな時間が一生続けばいいのにな。

その後も凛が分からないと言えば分かるように説明し教えた。

去年もこんなふうに勉強してたことあったな。

分からない問題を教えあって喜んでたっけか。

楽しかったな。

中間や期末の前は必ずしてたな。

そして、テストを見せ合いっこして、勝った負けたって騒ぎまくって笑いあったな。

戻りてぇな。

そんなことを考えたせいか、なんだか泣きそうになってしまった。

「ゆーくん?顔暗いけど大丈夫?」

不意に聞かれ、大丈夫!と笑顔で答えた。

ダメだ!笑顔でいねぇと。

さて、課題を始めどれくらい経ったのだろうか。

2時間といったところだろうか?

「終わったー!」

そう凛が言ったのとほぼ同時ぐらいにガチャっと玄関が開く音がした。

「凛〜ただいま!帰ったわよ。」

凛の母親が帰ってきてしまった。

凛は驚いた顔をしていた。

-コンコン-

「凛?居るわよね?入るわよ。」

ガチャっと扉が開けられた。

「マ、ママ!なんで…?」

「なんでって何よ?早く仕事が終わったのよ。というか居るならおかえりぐらい頂戴よ。寂しいじゃない。」

「ごめん。びっくりしちゃって。」

「そう。あら、宿題してしてた……凛?」

テーブルの上を見た瞬間、母親の声のトーンが変わった。

それを察した凜が急いで片付けをし始めた。

「凛、宿題2人でしてたの?」

「う、うん。そうだよ!ゆーくんが良いよって言ってくれたから。」

それを聞いた母親の顔は怒りと悲しみに満ちていた。

「凛!何度言ったら分かるの!?もう、いい加減にしなさい!優真くんは……!」

「やめてよ!!もういいよ、その話は!ママに何言われたって私は優真くんが大好きなだから!ほっといて!」

優真くんは…と何かを言いかけたところで凛が大声で怒鳴った。

そして、行こっと俺の手を引っ張って行った。

部屋を振り返ると母親は泣き崩れていた。

俺は凄く胸が傷んだ。

苦しめてすみません。

凛は俺の腕を掴んだまま家を飛び出しひたすら歩いていた。

そして、途中まで来るとピタリと歩くのをやめて振り返った。

「ゆーくん…ごめんね。嫌な思いさせたよね。」

「いや、大丈夫だよ。」

凛は今にも泣き出しそうだった。

「凛。そこの公園のベンチ座って話そ。」

「うん。」

俺はベンチへ誘導した。

「私ね、ゆーくんのこと大好きなんだよ。ママだって認めてくれて応援してくれてたのに…突然パパもママもゆーくんを忘れなさいって…。」

俺はなんて言葉をかければいいのか分からなかった。

だけど、凛の両親の言っていることは正しい。

「どうしてそんなこと言うのかな…。私はずっとゆーくんのそばに居たいのに…。」

ずっと俺のそばに…か。

「ねぇ、ゆーくん。離れて行ったりしないよね?隣に居てくれるよね?」

不安そうな顔で尋ねてくる凛。

俺は…。

「あぁ。大丈夫だ。ずっと隣にいるよ。」

そう言って抱きしめた。

また、1つ嘘をついた。

俺は大バカだ。

凛の部屋を出ていくとき母親が泣き崩れながら、

小さな声で言ったんだ。

『もう優真くんを解放してあげて…。』

凛には聞こえていなかったみたいだが、

俺ははっきり聞こえた。

でも、違う。

違うんだ。

凛が俺を縛り付けてるんじゃない。

俺が凛を離せないでいる。

だから、凛は悪くない。

俺が悪いんだ。

もう凛の隣には居てやれないと、

そういえば凛を解放してやれる。

本当のことを話せば自由になるのに。

俺はそれが出来ない。

凛の問いかけに都合のいいように嘘で塗りつぶしていく。

そのせいでこうやって悲しませてしまうんだ。

俺は本当最低だ。

その後、俺たちは辺りが暗くなるまでベンチで話していた。

帰る頃には凛も笑顔に戻っていた。

「ゆーくん!今日はありがとう!次はお祭りで会おうね!バイバイ!」

「じゃな。」

家まで送ろうと思ったが、

凛がまた何か言われるかもしれないと思いやめた。

凛の姿が見えなくなるまで見送った。

そして俺は踵を返して歩き出した。

次は夏祭り。

一緒に祭りに行けるのは多分今年が最後だろう。

来年は俺はもう居ないだろうから。

違う誰かと祭りに行って笑っているだろうから。

だから…だから、最後にいっぱい笑わせてやる。

楽しませてやるからな。

楽しみにしとけよ、凛。

すると、俺の目から涙か溢れ出した。

ふっ…こんなんなっても涙出んのかよ。

はぁ、かっこわる。

夏祭りまで2週間。

どう楽しませるかしっかり考えよう。

この時心にそう決め、

俺は2週間何があるのか調べ、

どうすれば凛は笑ってくれるか楽しんでくれるか、

必死に考えた。

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