辺境伯様と白い結婚~敵国の王女のはずが旦那様の甘やかしが止まりません~

 「旦那様は、普段はほとんど表情が変わりません。奥様とお話する時だけです、あのように柔らかい表情になるのは……私も長年このお城に仕えてきて、旦那様のあのような表情を見た事はありませんわ。奥様の事になると百面相になるところは、この城で知らない者はいません」


 「そ……そうなの?」

 「はい、旦那様は戦場にいる事が多かったのもあり、常にピリピリした空気を纏っておりましたから……奥様を連れてきた時は、それはもう皆驚きましたよ。それと同時に感謝しております。奥様がいらしてから旦那様の空気が柔らかくなりましたので、お城の雰囲気が随分明るくなりました」


 侍女長のモネも負けず劣らず表情を変えない人なのだけど、この話をした時はとても柔らかい表情だった……私が皆の迷惑になっていないのなら喜ぶべき事ね。

 私はリンデンバーグでは常に邪魔者だったから……他者から迷惑に思われないかが常に気になってしまう。


 ここの人たちがそんな人達ではないと分かっているのだけど、長年培われた考え方というのはなかなか直ぐには変えられない。


 ここがあまりにも居心地が良くて、ここにずっといたい、邪魔に思わないでほしい、必要とされたい、という気持ちが私の中で大きくなってきていた。

 でもそんな気持ちをどうにかして諫め、何かあった時に自分の心を守れるように……いつでも出て行けるように考えている自分がいる。そんな私の弱い気持ちを見透かしているのでは、と思うほどテオドール様は沢山の贈り物を贈ってくださる。

 
 これ以上宝物が増えては、前の生活に戻れなくなる。

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