辺境伯様と白い結婚~敵国の王女のはずが旦那様の甘やかしが止まりません~
 王族だからこそ分かる、この声の主は貴族だわ。それも相当な…………私はゆっくりと振り返った――


 
 そこには大きな黒馬に跨り、こちらを見下ろす、真っ赤に燃える髪を揺らした大男がいた。

 
 私は息が止まりそうな程の衝撃を受ける……ここが地獄なのではというくらいの恐ろしさ……でも逆光で顔がよく見えない…………



 「リンデンバーグの者かと聞いている……」


 「……え、ええ、そうです」


 「名は?」


 「………………………………」


 ここではどう名乗るのが正解なの?王族の名を言ってしまってはダメよね……でもどうしたら………………そんな事を考えてモタモタしていると、エリーナが叫び出した。



 「姫様!お逃げください!!」

 「エリーナ!」


 私を庇おうとエリーナが前に出た時、大男が剣を抜き、馬上からエリーナに切りかかろうとしていた――――私は咄嗟にエリーナの腕を引っ張り、両手を広げてエリーナの前に出る――


 「ひ、姫様――」

 「………………………………」


 大男は私の鼻先を掠めるか否かの寸前で剣を止め、こちらを見下ろしている…………


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