辺境伯様と白い結婚~敵国の王女のはずが旦那様の甘やかしが止まりません~
テオドール様には想い人がいるって聞いていたじゃない。婚約していた令嬢がいる事も知っていたのに今さらショックを受けるなんて、勘違いも甚だしいわね。お兄様達の私を嘲る声が聞こえてくるようだわ。
涙が止まらないながらも城内を走って、走って…………気付いた。私にはここ以外に居場所がない事を。
自分には何もない。リンデンバーグにいた時と同じ。
走り疲れてたどり着いたのはお城の裏側にある、かつての食料貯蔵庫だった。今はパン用の粉が積み上げられていて、全く人気がない。暗くて狭い場所…………昔からそういう場所が一番落ち着く。お兄様たちに意地悪をされた時もそういった薄暗い汚い場所に逃げ込めば、彼らは服が汚れると言って寄り付かない。
一人になるにはうってつけの場所を見つけたわ……私は積み上げられた粉の袋と壁の隙間に膝を抱えて座った。とても落ち着く……これで誰の声も聞こえて来ない。
心が落ち着くと、とめどなく涙が流れてくる…………『心がどうしても苦しい時は沢山泣いた方がいいんですよ』と、昔エリーナに言われた事を思い出した。
沢山泣いたらまた頑張ろう………………
食料貯蔵庫の隅で散々泣いた私は、泣き疲れてそのまま眠ってしまう。
やがて日が傾き、だんだんと暗くなっていき…………古い食料貯蔵庫はただただシン……と静まり返っていたのだった。