嘘を吐く貴方にさよならを
「まだ見えない所にしてあげているんだから感謝してよね? 見えるところにしてしまったら、あんたが大好きな男漁りが出来なくなものねぇ」

 三人は笑い声を響かせ、咳き込んでいる一華を無視して歩き去った。

「ごほっ……」

 やっと痛みが引いてきた一華は立ち上がり、口元を拭う。憎しみの込められている漆黒の瞳を彼女達が去って行った廊下へと向け、睨みつけた。

 彼女達の声が完全に聞こえなくなると、一華はやっと歩き出し、教室へと戻る。
 自身の鞄を持って、何事もないように帰ろうとドアへ振り向くと、閉めたはずのドアが勝手に開き肩を震わせた。

 ドアが開いた先には、黒髪を紫のフードから覗かせ、八重歯を見せ笑っている黒華優輝の姿。
 黒髪の隙間から覗き見えるのは、彼がいつも付けているリング状のピアス。

「よっ、俺の事を調べていたみたいだな。少しは興味を持ってくれたという事か?」

「ち、違います! 友達が言ったからで…………」

 言い訳している一華を見て、優輝はきょとんと目を丸くする。だが、何も聞くことはなく教室内に入り彼女の前に立ち、腰を折って目線を合わせた。

「別に、照れなくてもいいぞ。お前の質問なら何でも答えてやる。何を聞きたいんだ?」

 真紅の瞳に見つめられ、何も言えなくなる。

 早く離れたいのに、彼の右手で顎を抑えられ逸らす事すら出来ない。
 心臓は本人の感情とは関係なしに高鳴り、頬が高揚する。

 緊張している彼女の様子を見て、優輝は笑いながらやっと顔を離し、彼女を解放させた。
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